最新記事

インタビュー

事業担当者は、法務パーソンと共犯関係を結べばいい

[水野祐]シティライツ法律事務所 弁護士

2016年9月23日(金)13時51分
WORKSIGHT

<「興味ドリブン」で仕事をし、サービスのあり方にも口を出す「偏屈なスタイル」だという弁護士の水野祐氏。今は社会の変化が激しく、法律と現実が一番離れている時代だからこそ、面白いことができると話す。オープンソースやオープンイノベーションに関して話すことも多いという水野氏からの、事業担当者へのアドバイス>

※インタビュー前編:法のスキルを活用し、イノベーションを創出しやすい環境を作る

 前編で、クリエイティブ、IT、建築・不動産といった分野を軸に、クリエイターや技術者、企業などへリーガルサービスを提供していると説明しました。作業として多いのは契約書や利用規約の作成、レビューなどですが、それは最終的なアウトプットであって、重要なのは法律相談に至る前の見えない部分だったりします。

 例えば3Dプリンターを活用したサービスを作るとして、著作物や商標登録されたキャラクター製品について3Dプリンターでどこまで制作することが可能なのか、それを販売してもいいのか、といった議論があります。サービスの適法性に疑義があるようなケースもあるので、そういう意味では開発の早い段階から、サービスの内容自体にも食い込むような形でご相談いただく形が多いですね。

【参考記事】3Dプリンターがアメリカの製造業を救う

 僕もサービスのあり方に口を出しますし、そういう口うるさいところも買ってくださっているクライアントからしか、たぶん依頼は来ていないと思います(笑)。こういう偏屈なスタイルになってしまうのは、おそらく僕が興味ドリブンだからなんでしょう。

 ビジネスにおいて社内の法務部や外部の弁護士に何か相談するようなときって、たいてい企画や製品の仕様が固まって、あとは規約や契約にどう落とし込むかというような、いってみれば下流の工程ではないかと思いますが、僕は好奇心がおもむく場所やシーンに積極的に足を運んで、そこにいる人たちとコミットしていきたい。

 半分は趣味なんですけど、そういう関係性の中から仕事の依頼を受けることが多くあります。クライアントと興味や問題意識をより強く共有できるということで、より戦略的な部分にもコミットしたり貢献することができます。僕が仕事に感じる醍醐味は裁判の勝ち負けとかよりも、そういう部分にあったりします。

オープン化で世界中の開発者やユーザの参入を促す

 筋電義手を開発するスタートアップ企業・イクシー(exiii)では、彼らが開発した義手のオープン化* をサポートしました。

 筋肉の電気信号を通して直感的に動かせる筋電義手は一般に150万くらいの製作費がかかるそうですが、それを3Dプリンターなどを駆使して低額で制作できるようにしたいとイクシーは開発に取り組んでいます。その目標を具現化するため、最新モデルの「ハックベリー」の開発をオープン化しようと考えたわけです。世界中の開発者やユーザが参入すればコミュニティが作りやすくなるという狙いです。

 イクシー側は具体的なオープン化の進め方については白紙だったので、僕も一緒に考えながら利用規約やライセンスを形にしていきました。イクシーの知的財産が流出するようなことは避けつつも、できるだけオープンに使いやすくなるように細心の注意を払っています。手応えは少しずつ出てきていて、開発参加者やパートナーも増えていますし、結果としてイクシーの宣伝にも寄与しています。

 また、顧問を務めるライゾマティクス** の案件でも企画段階からプロジェクトに参入することが多くあります。著名な音楽ユニットのモーションデータや3Dスキャンデータの無料配布プロジェクトもそうでしたし、最近ではセンサーで入居者の様子を24時間記録するという賃貸物件のプロジェクト*** についても契約や規約作りを担当しました。

 法的な妥当性はもちろんのこと、こうやらないと安全にはできないとか、こうすれば興味深いデータが得られるかもといった観点で、いくつか提案もさせてもらいました。ここで得たデータは今後の建築・設計にも生かされます。アイデアは風変りですけど、意義のある実験的な試みといえます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米2月求人件数、19万件減少 関税懸念で労働需要抑

ワールド

相互関税は即時発効、トランプ氏が2日発表後=ホワイ

ワールド

バンス氏、「融和」示すイタリア訪問を計画 2月下旬

ワールド

米・エジプト首脳が電話会談、ガザ問題など協議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中