ロシアで復活するスターリン崇拝
だが、こうした発言の本気度を疑う向きも多い。共産党中央委員会のゲンナジー・ジュガーノフ委員長が多額の政党交付金の見返りとして名目上の野党に甘んじ、人々の不満のガス抜き役に徹しているというのだ。批判派によれば、その証拠に共産党はプーチンの外交政策や市民の自由を抑圧する立法措置を熱狂的に支持している。
「偉大な英雄」を求める
「共産党は長年ゲームのルールを受け入れてきた」と、著名な政治アナリスト、ドミトリー・オレシュキンは言う。「(政権転覆に)つながらないと分かっているから、クレムリンは彼らの政府批判に目をつぶっている。プーチンは交付金を餌に彼らの首根っこを押さえ付けている」
共産党の元党員はもっと手厳しい。「共産党は張りぼてだ。ただの虚像さ」と、07年に起きた党内の大粛清で追放されたアナトリー・バラノフは吐き捨てる。「政策は絵に描いた餅で、はなから実現させる気はない」
共産党幹部はこうした批判に激しく反論する。「総選挙でも地方選挙でも、われわれは赤旗を掲げて闘い、勝利に向けて前進してきた。街頭デモも野党の中で最も活発に行っている」と、ラシュキンは主張した。
【参考記事】ロシアの新たな武力機関「国家親衛軍」はプーチンの親衛隊?
旧東欧諸国の左翼政党は冷戦後、イメージを刷新し、社会民主主義を取り入れてきた。だがロシアの共産党は企業寄りになり、ロシア正教を認めたことを除けば、旧態依然の体質を変えていない。党本部の壁や垂れ幕などにはレーニンとスターリンの肖像があふれているし、党の公式のシンボルマークはソ連時代と同じ鎌と槌(つち)だ。「スターリン、レーニンなどソ連時代の英雄の名を今後も広めていく」と、ラシュキンは言う。
この方針は今の世論の動向にマッチしているようだ。ウクライナとシリア問題をめぐってロシアと西側の緊張が高まるなか、多くのロシア人がスターリンを偉大な英雄と見なすようになった。今年の世論調査では程度の差はあれ、スターリンの強権支配を好意的に評価した回答が52%を占めた。
「ロシアには勝者が正義だということわざがある。スターリンは勝者だ。政敵ばかりか、時代にも、自分の死にも打ち勝った。だから僕らはスターリンの旗を高々と掲げるんだ」と、冒頭に紹介したオブコフスキーは言う。
ロシアは来年、ボリシェビキ革命100周年を迎える。共産党は歴史を味方に付けて一気に党勢を拡大する構えだ。取材の最後にオブコフスキーはこう断言した。「遅かれ早かれ、どんな手段を取るにせよ、共産党は必ず政権を奪還する」
[2016年9月13日号掲載]