最新記事

ロシア社会

ロシアで復活するスターリン崇拝

2016年9月14日(水)16時20分
マーク・ベネッツ

Eduard Komiyenko-REUTERS

<長引く経済危機で人々の不満が鬱積するなか、クレムリン公認の野党・共産党が支持を拡大している>(写真は、ソ連時代に設置され今も存続する少年少女組織ピオネール)

 ヨシフ・スターリンについて語り始めると、青年の目は興奮に輝いた。

 ウラジーミル・オブコフスキーは23歳。物心が付いたときには共産党の一党独裁は終焉を迎えていた。スターリン時代の人々の暮らしなど知る由もない。それでも彼は、クレムリンに再び赤旗が翻る日を夢見ている。

「ロシアがすべての栄光を手にしたのは共産主義時代だけだ」現代版コムソモール(共産主義青年同盟)のリーダーを務める彼はそう力説する。「現政権はソ連時代に築かれたあらゆる制度を破壊した」

 共産主義時代への回帰を願うのは彼だけではない。ソ連崩壊から4半世紀余り。手厚い社会保障制度があったソ連時代を懐かしむ人は多く、ロシアでは今も共産主義思想はしぶとく命脈を保っている。長引く経済危機で多くの有権者が貧困層に転落するなか、今月18日の連邦下院選挙を控えて、共産党が急速に支持を伸ばしている。

【参考記事】プーチン謎の娘婿がロシア富豪番付で4位に浮上

 今回の選挙に向けて、共産党が掲げるのは弱者救済だ。天然資源やたばこ・アルコール産業の国有化で財源を確保し、社会保障を拡充するという。ウラジーミル・プーチン大統領が01年に導入した13%の一律課税を撤廃して、累進課税を導入するとも公約している。

「最低賃金で働く清掃労働者とオリガルヒ(新興財閥)の税率が同じだなんてひどい話だ」と、共産党の地方議員ゲンナジー・ズブコフは息巻く。

 昨年9月、東シベリアのイルクーツク州で行われた知事選決選投票で、共産党候補のセルゲイ・レフチェンコが圧勝し、ロシア政界に大きな衝撃を与えた。

 12年に州知事の公選制が復活して以来、プーチンが推す与党の候補者が敗れたのはこのときが初めてだった。

 ロシアの選挙では、与党の勝利を確実にするために開票作業で不正操作が行われることは日常茶飯事といわれている。だが、イルクーツクの州知事選ではレフチェンコが与党候補に大差をつけたため、ごまかしが利かなかったのだと、地元の共産党員は誇らしげに説明する。

 モスクワの世論調査機関レバダセンターの調査によると、今年4月に15%だった共産党の支持率は、5月には21%に急伸した。同じく今年2月の調査では、ソ連型の計画経済に回帰すべきだと答えた人が50%を上回っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中