最新記事

インタビュー

【原爆投下】トルーマンの孫が語る謝罪と責任の意味(前編)

2016年8月6日(土)06時02分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

invu160806-1-3.jpg

オバマ大統領が5月27日、慰霊碑に献花し、演説を行った広島の平和記念公園 Wolfgang Kaehler-Lightrocket/GETTY IMAGES

 このエピソードを数人の日本人記者に話したところ、それを知ったサダコの兄の佐々木雅弘が04年か05年に「いつかお会いできますか」と電話してきた。会ってどうするかまでは考えなかったが、私は「イエス」と答えた。

 結局、私たちは10年にニューヨークで会った。雅弘と彼の息子の佐々木祐滋(ゆうじ)が禎子の折り鶴を9・11テロの追悼施設に寄贈したときだ。祐滋がプラスチックの箱から小さな鶴を取り出して私の手のひらに乗せ、「これは禎子が亡くなる前に最後に折った鶴です」と言った。そして、雅弘と祐滋は「広島と長崎の平和記念式典に来ることを検討していただけますか」と言った。

 私は「イエス」と答え、2年後に日本に向かった。長女は仕事のため行けなかったが、当時23歳だった長男と15歳の次男を連れて行った。これがすべての始まりだ。

――広島、長崎についてお子さんたちにどのように教えたのですか。

 彼らは既にその話に触れていたから、教える必要はなかった。長男はサダコの本を読み、歴史の授業を受けていた。広島と長崎に一緒に行き、翌13年には被爆者13人の証言を録画して伝えるために日本を再訪した。

 録画テープをハリー・トルーマン大統領図書館(ミズーリ州)のウェブサイトに掲載するために、被爆者の話に英語の字幕を付けようとしている。ドキュメンタリーや映画、テレビ番組などで使えるようにするためだ。

――サダコの本を読んだ当時、息子さんから何か質問をされましたか。

 長男は当時10歳だった。特に何も聞かれなかったが、私は「(原爆投下の)決断を下したのは、ひいおじいちゃんだ」と伝えた。その事実は知っていたはずだが、彼の中では(サダコの物語と曽祖父のことは)つながっていないようだった。まったく別の話として読んでいたから。

――それを聞いた息子さんの反応は?

 ......受け入れていた。彼はあの本を気に入っていたし、鶴を折るのが好きだった。日本が好きで、武道を習って育った。彼は単純にヒロシマ、ナガサキに興味を持っていた。

――それから17年がたちました。その間に息子さんから何か質問されたことは?

 聞いてくる必要はなかった。彼自身が(トルーマン元大統領について)本を読むなどしてきていたから。

――あなたに対して「おじいさんの決断をどう思うか」と聞いてきたことはないのですか。

(少し声を荒らげて)ノー! 息子と私は一緒に活動してきたようなものだ。私は被爆者に向かって、原爆投下は素晴らしい考えだったと言ったりはしない。しかし一方で、太平洋戦争を戦ったアメリカの退役軍人に対し、原爆投下が間違っていたと言うこともできない。私はその真ん中で身動きができなくなっており、息子も同じなのだと思う。私たちにとって、あの決断が正しかったかどうかという問いは、その後に相手の立場を理解することや、何が起きたかを伝えていくことの大切さに比べれば重要ではない。

――これはあくまで私の想像ですが、あなたはおそらく、祖父の決断が正しかったかどうかを知りたくなったのではないでしょうか。そして、その決断を正当化できるか否かを理解しようと努力してきたはずです。しかし、その結果たどり着いた結論を口に出したら、日本人とアメリカ人の双方に大きな影響を与えてしまう。だから言わないでいるのでは?

 話すことはできる。祖父が大統領時代に使っていたキーウェストの保養地で毎年学術会議が行われており、14年のテーマは原爆だった。伝統的な歴史学者は原爆は戦争を終結させ、日米双方の多くの命を救ったと主張する。一方、歴史修正主義者は日本は既に負けたも同然で、原爆投下はソ連を威嚇するためだったと言う。(主催側である)われわれは当初、両陣営を交えた議論を想定していたが、会議の議長はこの議論をするといつも怒鳴り合いになるだけだと吐露していた。

 それこそが、このテーマの問題点だと思う。どちらか一方の極端な主張だけを採用すると誰も前に進めず、ただ怒鳴り合うだけだ。だから私は、(原爆投下が正しかったかという問いに)関わらないことにしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中