G20と「人民の声」の狭間で――中国、硬軟使い分け
王毅外相はもともと駐日本国の中国大使を務めていた人。そのころは親日的態度で、日本語もペラペラ。しかし中国にとっては、「(歴史を反省しない)敵国日本の言葉を使うことは、日本にへつらったに等しい」。したがって習近平政権誕生以来、日本の要人と会う際に日本語を使うことはご法度となっている。それでも親中派とされている二階氏に対しては、「日本の中に敵と味方を形成する」という習近平政権の戦略においては、許可されているのである。
それだけではない。
王毅外相の「訪日」に関しては、中国の中央テレビCCTVは、ただの一秒間も報道しなかった。
谷内局長訪中は大々的に報道
一方、谷内国家安全保障局長が訪中して李克強国務院総理(首相)と会ったことに関しては、CCTVが大きく報道した。それは日本が中国を訪問して「G20における日中首脳会談の実現を中国に頭を下げてお願いしに来た」という位置づけができるからだ。
日本が朝貢外交のために「北京詣で」をしたという形で、ネットでも書き立てていた。
中国共産党機関紙「人民日報」の日本語版も伝えており、李克強首相の表情からも読み取れよう。本当はニコリとしたいが、日本に笑顔を見せてはならない中国の「国情」がにじみでている。
言論の自由がない中国では、ネット言論が持つ力は尋常ではない。
インターネットというのは、日本とは位置づけが異なる。
世界でも最もネット言論を気にしているのは中国だと言っても過言ではないだろう。
こうまでしてでも、日中韓外相会談で強がりを見せたり、谷内局長の訪中を誇大報道したりする背景には、万一にもG20 で中国包囲網が形成されるのを恐れるからである。
北朝鮮非難報道声明に賛同した中国
その証拠に、あそこまで抵抗していた北朝鮮を非難する国連安全保障理事会の報道声明に対し、中国は8月26日、賛同の意を表するに至った。
中国が報道声明に難色を示していたのは、アメリカが韓国にTHAAD(地上配備型迎撃システム「終末高高度防衛」)ミサイルを配備することに対して強烈に反対していたためだったが、G20のためには「一時休戦」という道を選んだものと思われる。
その意味で、「こわがっている」のは中国政府の方で、怖がっている相手は国際社会と、何よりも自国のネット言論なのである。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。