最新記事

黒モノ家電コンシェルジュ

まさに「新しいブラウン管」、鮮やかに進化を遂げた有機EL第2弾

2016年8月29日(月)17時21分
麻倉怜士 ※Pen Onlineより転載

黒い部分の階調も細かく再現できるのが、第2世代の有機ELならでは。実勢価格65型 ¥970,000


エルジー オーレッド テレビ
LG OLED TV 65E6P〈テレビ〉

 いまテレビといえば液晶だが、欠点も多い。バックライト光が漏れて黒が浮く、動画応答が遅く、早い動きの被写体がぼける、視野角が狭く斜めから見ると変色する......。この欠点は、バックライトの光をカラーフィルターで透過するという方式に起因している。20世紀のテレビはブラウン管だった。大きく、重たい、消費電力も多いデバイスだが、「自発光」が画質的なポイントで、コントラストが高く、動画もぼけず、視野角もどこから見ても問題なかった。それが液晶になって失われた。 

(参考記事:白モノ家電コンシェルジュ 静寂の寝室に投影される、100万の星々。

 有機化合物に電圧をかけ、自発光する有機ELは、まさに「新しいブラウン管」。ディスプレイはディレクターズ・インテンションを再現しなければならない、と私は常々言っている。つまり制作者の「思い」を映像で表現しなければならない。この部分は暗部に沈める、この部分は明るくするという、コンテンツ制作時での絵づくりの意図をそのまま再現できる唯一のディスプレイが「自発光・有機EL」なのだ。既に日本では昨年から韓国のLGエレクトロニクスが有機ELテレビを発売しているが、ここに紹介するのは、その第2世代版。いま世界的に有機ELが量産できるのは、韓国のパネル・メーカーのLGディスプレイが唯一だ。

(参考記事:黒モノ家電コンシェルジュ有機ガラスの筒が空間を一変させる、音と光の魔法。

 第2世代は、第1世代有機ELパネルに比べ、性能を格段に上げた。ドルビービジョンというHDR(ハイ・ダイナミックレンジ)方式に対応するため、輝度を大胆に向上。HDRは、黒と白の間のレンジを拡張することで、これまでの規格では見られなかった明部の色を豊穣に再現することを可能にした技術だが、実現するためには高輝度が表示できなければならない。ところが、極端に明るくはできないという問題があった。「自分を燃やす」自発光では、輝度を上げると寿命が短くなり、寿命を延ばそうとすると、輝度を落とさなければならないからだ。 

(参考記事:白モノ家電コンシェルジュ タンスの裏にもするりと潜りこむ、華麗なる掃除機。

 パネルの材料と構造を根本的に変革することで、その問題を見事に解決。従来の約1.5倍の白輝度を実現し、さらに寿命を延ばすことに成功した。輝度半減期の時間は10万時間を確保。HDRは液晶テレビでもトレンドだが、暗い背景に明るい被写体がある(たとえば、闇夜に満月)図柄では、ハロー現象という輪郭にじみが発生する。画素単位で自発光する有機ELでは、それは皆無。実にすっきりと切れ味のよい鮮鋭感が得られるのである。コントラストの高さ、精細さ、ヌケのよさという画質的な美点をさらに高め、HDRという新映像にも的確に対応した新世代・有機ELテレビへの期待は大きい。

pen160830-2.jpg

量産が非常に難しいとされる有機ELだが、LGディスプレイのみが、それに成功、商品化している。

※Pen本誌より転載

[concierge]
麻倉怜士 Reiji Asakura
デジタルメディア評論家。1950年生まれ。デジタルシーン全般の動向を常に見据え、巧みな感性評価にファンも多い。近著に『高音質保証!麻倉式PCオーディオ』(アスキー新書)『パナソニックの3D大戦略』(日経BP)がある。

青野 豊・写真
photographs by Yutaka Aono

※当記事は「Pen Online」からの転載記事です。
Penonline_logo200.jpg



今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ノルウェー政府系ファンド、第1四半期は400億ドル

ビジネス

ニデック、今期営業益は過去最高更新へ 設備投資・研

ビジネス

仏ルノー、第1四半期は小幅増収 米関税は影響せず

ワールド

ウクライナ首都に今年最大規模の攻撃、8人死亡・70
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 10
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中