最新記事

年金運用

カルパースのCSR投資はリターンを犠牲にした無責任投資

2016年8月12日(金)16時00分
ダイアナ・ファークゴット・ロス(マンハッタン・インスティテュート、エコノミクス21ディレクター)

 CSR投資が年金の運用成績の足を引っ張る顕著な例の一つはタバコだ。カルパースはCSRの観点から、タバコ企業への投資を行っていない。しかし、タバコ株の多くは極めて高い利益率を誇る。昨年1年間のS&P500指数の上昇率はわずか2%だったが、タバコ関連株価指数はこの間に約15%上昇した。

【参考記事】アフリカがたばこ会社の次の餌食

 銃器メーカーへの投資も同じだ。2013年にコネチカット州のサンディフック小学校で26人が死亡する銃乱射事件が起きると、カルパースは銃器メーカーに投資していた500万ドルを引き揚げた。

一方では2010年、地球に優しい主要企業の株式に投資する「グローバル株式環境指数ファンド」に5億ドルを振り向けた。しかしこれまでの運用益は6.61%で、グローバル株式全体の値上がり率12.79%と比較して半分にとどまったことを認めている。

 カルパースはまた、自らCSRを推進する活動も行っている。エネルギー消費の削減に取り組む「国連環境計画の金融イニシアチブ」共同議長を2012年から2年間にわたって務めたほか、労働基準法を順守しない企業の監視も行う。

CSRの余裕はない

 カルパースが苦境に陥った原因は、CSR投資だけではない。コロンビア大学のアンドリュー・アング教授と、ノルウェー政府系ファンドの創設者兼CEO(最高経営責任者)のクヌート・N・ケアーによる論文によると、カルパースは2008~2009年の世界金融危機の間に700万ドルの損失を出した。今なら17億ドルに相当するアップル株を3億7000万ドルで売ってしまうなどしたためで、株価が回復しても取り戻せない。

 カルパースが抱える積立不足は、アメリカで最大の7540億ドルだ。持ちこたえるには、何としても成長しなければならない。そうでなければ、増税、支出削減、年金支給額の削減、さらには掛け金の引き上げをしなければならなくなる。カリフォルニアの所得税は最高13.3%で既にアメリカで一番高い。カルパースにはCSR投資をしている余裕はない。

 カルパースの運用成績がこのまま伸び悩めば、カリフォルニアの今の世代も未来の世代も損失を被る。年長の住民は自ら積み立てた年金が危険にさらされるし、若者はもらえる年金は少なくなるのに高い保険料や税金を払うことになる。

 市場平均を下回ることが確実視される投資を続けるのは自分勝手すぎる。

The article first appeared on the Manhattan Institute site.
Diana Furchtgott-Roth is a senior fellow and director of Economics21 at the Manhattan Institute.
.

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中