コラム

アフリカがたばこ会社の次の餌食

2009年07月29日(水)16時16分

 米タイム誌によると、たばこ会社は次の大きな未開拓市場としてアフリカに目をつけている。

 商品価格の高騰も手伝って、アフリカはこの10年で急速な経済成長を遂げている。たばこ会社は、所得が増えると喫煙率も上がるというパターンに賭けているのだ。アフリカの喫煙人口の少なさと可処分所得の増加を考えると、たばこ会社の論理もうなずける。


 ガーナの男性の喫煙率(世界のほとんどで男性は女性の喫煙率を上回る)はたったの8%。コンゴでは14%、ナイジェリアでは12%だ。インドの31%やマレーシアの56%、べらぼうに高い中国の61%と比べれば差は歴然としている。


■井戸やワクチンで先に恩を売る

 アフリカでのマーケティングと生産に力を入れる一方、たばこ会社はイメージ向上のための先手も打っている。


 たばこ会社は「企業の社会的責任(CSR)」活動を加速させている。アフリカとアジアのいたるところで慈善活動を行っているのだ。米フィリップ・モリスは05年、インドネシアで奨学金制度を運営していた現地のタバコ会社、サンポエルナを50億㌦で買収した。英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)もマレーシアで似たような活動をしており、ナイジェリアでは現地で上げた利益の1%を、飲料水や医療サービス、ワクチンの提供などを通じて還元している。寛大な贈り物をすることで、貸しを作ろうというわけだ。

「村の人たちに『企業が新しい井戸や自転車をくれても受け取ってはいけない』と言うのは難しい」と、WHO(世界保健機関)の顧問、ステラ・ビアロスは言う。「だがその企業が理不尽と思う規制を通す段階になると、借りを返せと言ってくる。その頃には、多くの村や小さなグループが彼らのお金に依存している」


 それでもナイジェリア政府は07年、子供をターゲットにたばこの宣伝キャンペーンを行ったとして、たばこ会社3社を相手に450億ドルの損賠賠償訴訟を起こした。たばこ反対運動を始めた国も多い。

 だが、規制が緩く医療水準は低く、平均寿命も短い多くのアフリカの国々で、喫煙が急増するのを防ぐのは難しいだろう。

──マイケル・ウィルカーソン
[米国東部時間2009年07月28日(火)19時35分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 24/7/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story