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日中関係

中国軍軍事力強化表明――鳩山氏が筆頭演説した世界平和フォーラムで

2016年7月18日(月)08時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 これはすなわち、中国の軍事力強化は「平和のためだから許される」と宣言したのに等しく、いま日本が、中国の軍事力強化によって、「日本の安全が脅かされるのではないか」という脅威に脅かされ、国家安全を、どのように保障していけばいいのかという議論の中で日本国民が窮地に立たされている事態を助長しているのに等しいのである。

 日本人は誰一人、二度と再び、あのような(先の)戦争が起きることは望んでいない。

 平和を望んでいる。

 しかし北朝鮮の脅威と、何よりも中国の軍事的脅威にさらされたときに、もし仮に日米安保条約がなかったとしたら、日本はどのようにして日本国民を守ればいいのかという選択と討議に、いま追い込まれているところではないのか?

 その第一の前提条件は、中国が軍事的脅威を弱めることであり、民主的な国家になって、国際法に基づいて「平和な海」を実現してくれることにある。

 しかし「平和の海」を唱えていたはずの鳩山元首相は、中国にひざまずいて、「中国の軍事力強化によってこそ平和が来る」という中国の戦略と論理に乗っかって、国際司法の判決を批難し中国の主張の正当性を擁護する演説をしたのだ。

 しかも中国の国家戦略の構図の中で、である。

 これが、真に日本国民のためになる結果を招くのか否か、深く考えてほしい。

 憲法改正論議が始まろうという前夜に、一国の首相として日本国民の安全を預かっていた者の、取るべき行動だろうか?

 もう一度プログラムの部分に注目して頂きたい。

 中国語のプログラムでは「鳩山由紀夫」の肩書は、カッコ書きがあるとしても「日本首相」なのである。

「日本元首相」とは書いてない。

 これが、中国の戦略の中にきっちり組み込まれた、我らがかつて選んだ「元首相」の姿なのである。

「元首相」は個人ではない。その良識と、あるべき姿をともに考えてみたい。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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