最新記事

バングラデシュ

ダッカ人質テロの背後にちらつくパキスタン情報機関の影

2016年7月13日(水)16時10分
山田敏弘(ジャーナリスト)

 現在バングラデシュは、インド寄りの与党アワミ同盟が国を治めている。バングラデシュでは1971年の独立に際して起きた戦争犯罪を裁く特別法廷が行なわれているが、バングラデシュ警察は2015年11月、野党バングラデシュ民族主義党(BNP)の幹部で独立時にパキスタン側に加わっていたサラウッディン・チョードリーと、イスラム政党であるイスラム協会(JI)の幹部で独立時にパキスタン側として多くのヒンズー教徒を殺害したとされるアリ・ムジャヒドを、大量虐殺の罪で「一緒に絞殺刑」に処したと発表した。また今年5月にも、独立戦争時にパキスタン側の残虐行為に加担したとして死刑判決を受けていたJIの党首モティウル・ラーマン・ニザミの絞首刑が執行され、相次ぐ大物の処刑に国内外で緊張が走った。

 この特別法廷はハシナ首相が主導して行なっているもので、反パキスタンという政治的な動機が背後にあると批判されている。またパキスタン政府は処刑に対して「深く困惑している」と嫌悪感を隠していない。

【参考記事】ISISの「血塗られたラマダン」から世界は抜け出せるか

 こうした情勢の中で、今回のダッカテロは起きた。バングラデシュのイヌ情報大臣が今回のテロの後に、「パキスタンのISIは(バングラデシュがパキスタンから独立した)1971年の出来事をいまだに引きずっており、報復したがっている」と語っているが、決して荒唐無稽な話ではない。しかも1971年を引きずっているのはバングラデシュも同じだ。

事件前に起きていた「予兆」

 イヌ大臣は、今回のテロの3カ月前に、外国人記者団を前にこんな興味深い発言をしていた。「私たちの調べでは、少なくとも8000人のバングラデシュ人の若者がアフガニスタンやパキスタンのテロ訓練キャンプで(国際テロ組織の)アルカイダから訓練を受けて帰国している。私たちは強く脅威を感じている」。またダッカ人質テロ直後には、「最近、武装勢力と関わっていたパキスタン人外交官数名を国外追放にした。彼らは正体を隠してパキスタン大使館に勤務していた」とも発言し、彼らがISIの工作員だったことを示唆した。

 今回のテロでは、事件発生直後にアルカイダとIS(いわゆる「イスラム国」)が揃って犯行声明を出した。欧米や日本のメディアでは、犯人らが「イスラム国」の旗の前で撮影された写真が公開されたことから、今回のテロは「イスラム国」が関与した犯行ということになっている。だが「イスラム国」犯行説を否定するイヌ大臣による一連のコメントを見ると、真相はそれ程単純ではない可能性がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中