最新記事

法からのぞく日本社会

ポケモンGOは大丈夫? 歩きスマホをやめたくなる5つの裁判例

2016年7月21日(木)15時42分
長嶺超輝(ライター)

 なお、自転車で交通事故を起こした場合には、警察に報告する義務がある。また、負傷者がいれば救護する義務があり、救護せずに立ち去れば「ひき逃げ」に該当するのも、自動車やバイクと同様である(道路交通法72条1項)。

 まもなく、「ポケモンGO」という大人気スマホゲームが日本にも上陸する見込みである。ゲーム世界と現実を重ね合わせた内容で、実際に街を移動しなければプレイできない。夢中になったプレイヤーが、つい「歩きスマホ」をしてしまう危険性と隣り合わせのゲームといえる。

【参考記事】「ポケモンGO現象」がさらに拡大:鬱が改善との声多数。検索数でポルノ超えも
【参考記事】米で大人気の「ポケモンGO」、ISISとの前線でプレイする猛者も登場

 前方をろくに見ず、予期せぬ動きで外を歩き回る、危なっかしいプレイヤーが続々と増えるのではないかと心配されている。まして、自転車やクルマを運転しながらプレイするのは、もってのほかだ。

 楽しいゲームに没頭しすぎた結果、現実がゲームオーバーに......なんてことにならないよう、常に周囲の状況を確認しながら遊んでいただきたいと、切に願うものである。

 歩行中や自転車運転中の事故は、個人賠償責任保険をもって、あるいは仕事中や通勤中の事故であれば会社の労災保険をもって、金銭面はまかなえる場合がある。これらの保険は、加害者自身に重大な過失があっても補償するのが基本だ。被害者から損害賠償を請求されたとして、たとえ事故当時に「歩きスマホ」や「チャリ漕ぎスマホ」をやっていたとしても、補償の対象にはなるのだろう。
(※個人賠償責任保険は、自身や家族の自動車保険やクレジットカード、自宅の火災保険などに、付帯や特約として付いている場合がある)

 とはいえ、本来、どんなに軽傷だろうと、他人を負傷させることはお金の支払いなどではとうてい済まない問題だ。まして、死亡や後遺症など、取り返しの付かない深刻な結果を引き起こした場合は、一生をかけて背負い、償う覚悟が求められる。

 日常と、非日常は、紙一重。スマホを使うときは立ち止まり、歩き出すときはポケットへ。くれぐれも気をつけて、街を移動しましょう。

[筆者]
長嶺超輝(ながみね・まさき)
ライター。法律や裁判などについてわかりやすく書くことを得意とする。1975年、長崎生まれ。3歳から熊本で育つ。九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫した。2007年に刊行し、30万部超のベストセラーとなった『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)の他、著書11冊。最新刊に『東京ガールズ選挙(エレクション)――こじらせ系女子高生が生徒会長を目指したら』(ユーキャン・自由国民社)。ブログ「Theみねラル!」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中