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イギリスの「モデル」、ノルウェーはなぜEU非加盟?

2016年7月4日(月)19時30分
鐙麻樹(ノルウェー在住 ジャーナリスト&写真家)



自分の国が大好き。自分たちで築き上げていきたい

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日本で同じことが起きれば、色々と誤解されそうなノルウェーのナショナルデー Photo:Asaki Abumi

 ノルウェー人の愛国心の代表といえば、憲法記念日(ナショナルデー)。毎年5月17日になると、首都オスロでは、子どもたちが国旗を掲げて、大通りを王宮まで大行進する。王室は王宮から手を振り、大人たちは民族衣装で楽しそうだ。素敵な行事に見えるが、同時に、半端ない愛国教育に、他国から来たものは目を丸くする。

 支配や連合の歴史が続いたため、やっと民主的な自由を手に入れたのだ。だからこそ、「ノルウェー人の耳に、"同盟"という言葉は警報として響く」と、ユーロピアン・ムーヴメント(以下、EU賛成団体)代表のヤン・アイリック・グリンドハイム氏は語る

 EU反対団体代表カトリーネ・クレーヴェランド氏は、1994年当時をこう振り返る。「ノルウェー人にとって、庶民による統制や民主主義は、とても重要です。"団結"という言葉もキーワードでした。"世界はEUよりも、もっと広い。ブリュッセルは遠い。自分たちの国で、自分たちで決めよう"とね」。

「1994年に勝利をしたのは庶民。負けたのは、EU賛成派だった権力者、メディア、政府。アーティスト、労働者、漁業者、農民はEUを望みませんでした。
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1994年、「地方青年団体」の女性たちによる運動。切り株には「EU反対」と書かれている。Photo:Nei til EU/ Berit Moen


EU賛成派だったメディア、でも国民国家の重要性を強調

 賛成・反対団体の両代表は、「ノルウェーメディアはEU賛成派だった」と口を揃える。今回のイギリスのEU離脱も、ノルウェーメディアは全体的に「欧州に混乱が広がる」と残念がり、悲観的だ。

「1994年も、大手メディアや編集部はEU賛成派でした。しかし、その報道の仕方は、EUに対して、非常にネガティブでしたよ。まるで、すべてが悪い方向に行くかのようにね。欧州の団結よりも、国民国家のほうが、より重要で正しいのだと、報道機関はこだわりすぎなのです。私個人の意見ですが、EUが誤解されやすい理由のひとつは、報道にもあると思います。EUにも課題はありますが、報道による噂ほど、ひどくはありません」と賛成団体は語る。

 ノルウェーでは若者がEU反対派だが、イギリスでは逆の現象だったなど、両国では違いも複数ある。どちらにせよ、「国民が自国の政策は自分たちで決定したい」と望んだことには変わりがない。EUの官僚は、自分たちの国を愛そうとする人々の声に、もうちょっと耳を傾けてもいいのかもしれない。

Photo&Text: Asaki Abumi


yoroi-profile.jpg[執筆者]
鐙麻樹(あぶみ・あさき)(北欧ノルウェー在住 ジャーナリスト&写真家)
オスロ在住ジャーナリスト、フォトグラファー。上智大学フランス語学科08年卒業。オスロ大学でメディア学学士号、同大学大学院でメディア学修士号修得(副専攻:ジェンダー平等学)。日本のメディア向けに取材、撮影、執筆を行う。ノルウェー政治・選挙、若者の政治参加、観光、文化、暮らしなどの情報を数々の媒体に寄稿。オーストラリア、フランスにも滞在経歴があり、英語、フランス語、ノルウェー語、スウェーデン語、デンマーク語で取材をこなす。海外ニュース翻訳・リサーチ、通訳業務など幅広く活動。『ことりっぷ海外版 北欧』オスロ担当、「地球の歩き方 オスロ特派員ブログ」、「All Aboutノルウェーガイド」でも連載中。記事および写真についてのお問い合わせはこちらへ

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