独裁者アサドのシリア奪還を助けるロシアとイラン
もちろん、今のアサドはまだ勝利から程遠い。反政府勢力は今もいくつかの重要拠点では危険な存在で、アサドが奪還した国土は全体のごくわずかだ。反政府勢力はとりわけ北西部のイドリブで攻勢を強めているが、それ以外にもシリア南部や首都ダマスカス郊外で相当の勢力を保っている。
ラッカやデイル・アルズールからISISを掃討するのも容易ではない。加えて政府軍の兵士や物資は不足し、経済は破綻、国民の深い恨みも買っている。アサド浮上などありえないように見える。
アサドが言うような全土の奪還は難しいだろう。
それが実現にするためには、反政府勢力への補給路を断ち、敵対的な外国勢力の目を逸らし、反政府勢力への支持が強い地域の住民を減らし、シリアの多数派であるスンニ派イスラム教徒には少なくとも一世代に渡って恐怖を叩き込み服従させなければならない。
外国に邪魔されないために、少なくとも一国はアサド政権の味方につけておかなければならない。
しかし実際にアサドにそんな力はなく、頼りはロシアとイランだけだ。アメリカも、ロシアとイランがアサドに停戦を守らせてくれるのを期待している。ロシアとイランなら、アサドの領土的野心を食い止めてくれるだろう、と。
シリアを取り戻す野心
だがおかしなことに、アサドはまんまと領土を奪還しつつある。ロシアは今年初め、空爆によってアサド政権に有利な形での停戦を可能にした。だがアサドは平気で停戦を無視し、包囲された町にロシアからの人道援助を届ける依頼も無視してしまった。
アサド軍の行動から、アサドがシリアを再び手に入れる最大級の野心を持ち続けていることが明らかになったのだ。
ロシアもイランもアサドがシリアを盗れるとは思っていないが、アサドに負けさせるわけにもいかない。アサドが倒れれば、この地域の勢力図が激変してしまうからだ。アサドはこの矛盾を突いて戦いを続けている。どんなに無謀なことをしても、アサドが窮地に陥れば、ロシアかイランが救援に駆けつけてくれる。
アサド政権はたぶん二度とシリアを支配できない。アサドは自らの能力を過剰評価し、人々の彼に対する憎悪を過小評価している。
だが現実に、アサドは反政府勢力に負けていないし、行き詰ってもいない。ロシアとイランは、アサド政権のために敵を追い散らしてくれている。ロシアもイランも、アサドにシリア全土を返してやることはできないだろう。だが十分な国土は手に入れられるだろう。
Faysal Itani is a senior fellow with the Atlantic Council's Rafik Hariri Center for the Middle East.