最新記事

内戦

独裁者アサドのシリア奪還を助けるロシアとイラン

2016年6月24日(金)12時00分
フェイサル・イタニ(米大西洋評議会中東センター研究員)

 もちろん、今のアサドはまだ勝利から程遠い。反政府勢力は今もいくつかの重要拠点では危険な存在で、アサドが奪還した国土は全体のごくわずかだ。反政府勢力はとりわけ北西部のイドリブで攻勢を強めているが、それ以外にもシリア南部や首都ダマスカス郊外で相当の勢力を保っている。

 ラッカやデイル・アルズールからISISを掃討するのも容易ではない。加えて政府軍の兵士や物資は不足し、経済は破綻、国民の深い恨みも買っている。アサド浮上などありえないように見える。

 アサドが言うような全土の奪還は難しいだろう。

 それが実現にするためには、反政府勢力への補給路を断ち、敵対的な外国勢力の目を逸らし、反政府勢力への支持が強い地域の住民を減らし、シリアの多数派であるスンニ派イスラム教徒には少なくとも一世代に渡って恐怖を叩き込み服従させなければならない。

 外国に邪魔されないために、少なくとも一国はアサド政権の味方につけておかなければならない。

 しかし実際にアサドにそんな力はなく、頼りはロシアとイランだけだ。アメリカも、ロシアとイランがアサドに停戦を守らせてくれるのを期待している。ロシアとイランなら、アサドの領土的野心を食い止めてくれるだろう、と。

シリアを取り戻す野心

 だがおかしなことに、アサドはまんまと領土を奪還しつつある。ロシアは今年初め、空爆によってアサド政権に有利な形での停戦を可能にした。だがアサドは平気で停戦を無視し、包囲された町にロシアからの人道援助を届ける依頼も無視してしまった。

 アサド軍の行動から、アサドがシリアを再び手に入れる最大級の野心を持ち続けていることが明らかになったのだ。

 ロシアもイランもアサドがシリアを盗れるとは思っていないが、アサドに負けさせるわけにもいかない。アサドが倒れれば、この地域の勢力図が激変してしまうからだ。アサドはこの矛盾を突いて戦いを続けている。どんなに無謀なことをしても、アサドが窮地に陥れば、ロシアかイランが救援に駆けつけてくれる。

 アサド政権はたぶん二度とシリアを支配できない。アサドは自らの能力を過剰評価し、人々の彼に対する憎悪を過小評価している。

 だが現実に、アサドは反政府勢力に負けていないし、行き詰ってもいない。ロシアとイランは、アサド政権のために敵を追い散らしてくれている。ロシアもイランも、アサドにシリア全土を返してやることはできないだろう。だが十分な国土は手に入れられるだろう。

Faysal Itani is a senior fellow with the Atlantic Council's Rafik Hariri Center for the Middle East.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中