アンドロイド美女が象徴するIT社会の深い不安感 人工知能SF『エクス・マキナ』
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<IT企業の強大な力に警鐘を鳴らす人工知能SF『エクス・マキナ』には、不安な現代を象徴するような深い不安がにじんでいる>
「意識を持つ機械を創造したら、それはもう人間の歴史ではない。神の歴史だ」。アカデミー賞視覚効果賞に輝くSFスリラーの秀作『エクス・マキナ』で、若いプログラマーのケイレブ(ドーナル・グリーソン)が社長のネイサン(オスカー・アイザック)に言う。
未来へようこそ。『エクス・マキナ』が描くのは、一見かなり現実離れした世界だ。
IT大手ブルーブックを経営するネイサンが人里離れた研究施設にケイレブを招き、女性型ロボットのエバ(アリシア・ビキャンデル)を披露する。ケイレブはネイサンに命じられ、エバが人工知能(AI)として完成しているかどうかを確認するテストを行うことになる。
エバは美しく頭も切れる。ケイレブの質問に答え、その言葉尻を捉えてからかい、停電を起こす。さらには監視カメラの電源が落ちた隙をついて不吉な警告をする。エバは何らかの秘密を握っているのだ。
ネイサンは四六時中、2人を監視している。物語の設定が意外と現在に近いのではないかと気付くのは、そのせいだ。
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『エクス・マキナ』は大企業が政府に匹敵する権力を持ち、政府のコントロールが利きにくくなった現代社会を風刺しているように思える。例えばブルーブックの設定。ネイサンが13歳で開発したブルーブックの検索エンジンはトップの人気を誇り、検索トラフィックの94%を占めている。
グーグルにそっくりではないか? グーグルをモデルにしたわけではなく、グーグルやフェイスブックが持つ力に対する社会の不安感を表現したと、脚本・監督のアレックス・ガーランドは語る。
「IT企業がしていることは邪悪なのか間違っているのか、私には分からない」と言うガーランドは小説家から脚本家に転身し(『わたしを離さないで』ほか)、この映画が初監督作だ。「彼らは絶大な力を持っている、というのが私の考え方。間違ったことをしていなくても、強大な組織には常に監視が必要だ」
人類が「化石」になる日
ケイレブはやがて、ネイサンが彼のポルノサイトの閲覧履歴を見てエバを設計したのではないかと疑い始める。ネイサンはエバの感情の成長を促すため、世界中のスマートフォンからデータを集めたことを認める。24時間監視されるのを承知でスマホを使う人々の不安を地でいく展開だ。
別種の監視もある。13年、エドワード・スノーデンの内部告発により米国家安全保障局(NSA)の情報収集の是非を問う議論が高まった。「あの事件はIT企業と政府の怪しい関係に、世間の目を向けさせた。企業と政府の結託は警戒したほうがいい」と、ガーランドは言う。