最新記事

映画

アンドロイド美女が象徴するIT社会の深い不安感 人工知能SF『エクス・マキナ』

2016年6月10日(金)16時00分
ザック・ションフェルド

©UNIVERSAL PICTURES

<IT企業の強大な力に警鐘を鳴らす人工知能SF『エクス・マキナ』には、不安な現代を象徴するような深い不安がにじんでいる>

「意識を持つ機械を創造したら、それはもう人間の歴史ではない。神の歴史だ」。アカデミー賞視覚効果賞に輝くSFスリラーの秀作『エクス・マキナ』で、若いプログラマーのケイレブ(ドーナル・グリーソン)が社長のネイサン(オスカー・アイザック)に言う。

 未来へようこそ。『エクス・マキナ』が描くのは、一見かなり現実離れした世界だ。

 IT大手ブルーブックを経営するネイサンが人里離れた研究施設にケイレブを招き、女性型ロボットのエバ(アリシア・ビキャンデル)を披露する。ケイレブはネイサンに命じられ、エバが人工知能(AI)として完成しているかどうかを確認するテストを行うことになる。

 エバは美しく頭も切れる。ケイレブの質問に答え、その言葉尻を捉えてからかい、停電を起こす。さらには監視カメラの電源が落ちた隙をついて不吉な警告をする。エバは何らかの秘密を握っているのだ。

 ネイサンは四六時中、2人を監視している。物語の設定が意外と現在に近いのではないかと気付くのは、そのせいだ。

【参考記事】年内にも発売されるセックスロボット、英研究者が禁止を呼びかけ

『エクス・マキナ』は大企業が政府に匹敵する権力を持ち、政府のコントロールが利きにくくなった現代社会を風刺しているように思える。例えばブルーブックの設定。ネイサンが13歳で開発したブルーブックの検索エンジンはトップの人気を誇り、検索トラフィックの94%を占めている。

 グーグルにそっくりではないか? グーグルをモデルにしたわけではなく、グーグルやフェイスブックが持つ力に対する社会の不安感を表現したと、脚本・監督のアレックス・ガーランドは語る。

「IT企業がしていることは邪悪なのか間違っているのか、私には分からない」と言うガーランドは小説家から脚本家に転身し(『わたしを離さないで』ほか)、この映画が初監督作だ。「彼らは絶大な力を持っている、というのが私の考え方。間違ったことをしていなくても、強大な組織には常に監視が必要だ」

人類が「化石」になる日

 ケイレブはやがて、ネイサンが彼のポルノサイトの閲覧履歴を見てエバを設計したのではないかと疑い始める。ネイサンはエバの感情の成長を促すため、世界中のスマートフォンからデータを集めたことを認める。24時間監視されるのを承知でスマホを使う人々の不安を地でいく展開だ。

 別種の監視もある。13年、エドワード・スノーデンの内部告発により米国家安全保障局(NSA)の情報収集の是非を問う議論が高まった。「あの事件はIT企業と政府の怪しい関係に、世間の目を向けさせた。企業と政府の結託は警戒したほうがいい」と、ガーランドは言う。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アルゼンチンがWHO脱退へ、「深い相違」と説明 米

ビジネス

米ISM非製造業総合指数、1月52.8に低下 需要

ワールド

米郵政公社、中国小包の受け取り継続へ 一時停止から

ビジネス

米1月ADP民間雇用、18.3万人増 予想上回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギー不足を補う「ある食品」で賢い選択を
  • 3
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 4
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    マイクロプラスチックが「脳の血流」を長期間にわた…
  • 7
    【USAID】トランプ=マスクが援助を凍結した国々のリ…
  • 8
    AIやEVが輝く一方で、バブルや不況の影が広がる.....…
  • 9
    「僕は飛行機を遅らせた...」離陸直前に翼の部品が外…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 6
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 7
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 8
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギ…
  • 9
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中