【写真特集】イラクから脱出できないスンニ派住民の苦難
バルセロナを拠点とするサマンは、14年間にわたってイラクを追い続けてきた。最近はバグダッド州やアンバル州、サラハディン州などで家を追われたスンニ派住民に焦点を当てている。
ISISが名目上はスンニ派の一派であるため、スンニ派住民は親ISISとの疑念を持たれやすい。そのせいもあり、彼らの苦難の年月に光が当たることは少なかった。
「多くのスンニ派コミュニティーがISISを支援していると言われるが、そんな単純な構図ではない」と、サマンは語る。彼が出会った人の中には、親族をISISに殺害されたり、かつて警察や軍に所属していたためにISISの標的にされている人も多い。「避難民キャンプにいる人の大半はISISと関わりたくなくて避難している」
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スンニ派の彼らが、シーア派住民が多数を占めるイラク南部に逃げ込むのは難しい。バグダッドでさえ分断されており、スンニ派住民は誘拐や逮捕を恐れて自宅周辺以外の地域に出掛けにくい状況が続いている。
サマンが訪れた地域では、シーア派主体の中央政府は国民を代表していないという不満が多く聞かれた。スンニ派住民は祖国にいながら疎外感を募らせており、ISISはそうした感情に乗じて勢力を拡大してきた。しかも、たとえ政府軍がアンバル州を奪還しても不満は簡単には解消されそうにない。
故郷を追われたスンニ派住民は、自宅に戻れる日をひたすら夢見ている。だがファルージャは戦闘の真っただ中、ラマディは瓦礫の山と化した今、彼らの多くには戻る場所さえない。
(バグダッド中心部のスンニ派地域であるアダミヤ地区で綿菓子を売る男性。この地区は国内各地から戦闘を逃れてきたスンニ派住民の受け皿となっている。イラク国民の10%以上が故郷を追われ、避難生活を送っている。)Moises Saman-Magnum Photos
(トレーラーハウスで暮らすワサン・ハサン〔30〕と息子のラミ〔10〕。昨年春にラマディがISISの支配下に入ると、母子はバグダッドのアダミヤ地区に身を寄せた。ハサンは06年、米軍とスンニ派勢力の戦闘で発射されたロケット弾によって妹を失い、自身も両脚をなくした。以来、車椅子生活を送っている。)Moises Saman-Magnum Photos
(スンニ派住民が多数を占めるアルブ・アジール村の自宅で絵を描く10歳の少女サラ・アドナン・モハメド。人口2万人のこの村に近い町ティクリートは14年6月にISISに制圧され、昨年4月に政府軍に奪還された。サラの一家は1年以上の避難生活を経てようやく村に戻ったが、村の大部分は破壊され、一家の自宅も一部が焼け落ちていた。)Moises Saman-Magnum Photos
Photographs by Moises Saman-Magnum Photos
撮影:モイセス・サマン
1974年、ペルーのリマ生まれ。米カリフォルニア州立大学でコミュニケーション社会学を学ぶ。米新聞社でスタッフ・フォトグラファーとして中東などの紛争を取材し、2007年からフリーランス。世界的写真集団マグナム・フォト会員。2月にアラブの春をテーマとした写真集『ディスコーディア』を発表
<本誌2016年3月29日号掲載>