最新記事

スンニ派

【写真特集】イラクから脱出できないスンニ派住民の苦難

2016年6月6日(月)17時15分
Photographs by Moises Saman

 バルセロナを拠点とするサマンは、14年間にわたってイラクを追い続けてきた。最近はバグダッド州やアンバル州、サラハディン州などで家を追われたスンニ派住民に焦点を当てている。

 ISISが名目上はスンニ派の一派であるため、スンニ派住民は親ISISとの疑念を持たれやすい。そのせいもあり、彼らの苦難の年月に光が当たることは少なかった。

「多くのスンニ派コミュニティーがISISを支援していると言われるが、そんな単純な構図ではない」と、サマンは語る。彼が出会った人の中には、親族をISISに殺害されたり、かつて警察や軍に所属していたためにISISの標的にされている人も多い。「避難民キャンプにいる人の大半はISISと関わりたくなくて避難している」

【参考記事】米国とロシアはシリアのアレッポ県分割で合意か?

 スンニ派の彼らが、シーア派住民が多数を占めるイラク南部に逃げ込むのは難しい。バグダッドでさえ分断されており、スンニ派住民は誘拐や逮捕を恐れて自宅周辺以外の地域に出掛けにくい状況が続いている。

 サマンが訪れた地域では、シーア派主体の中央政府は国民を代表していないという不満が多く聞かれた。スンニ派住民は祖国にいながら疎外感を募らせており、ISISはそうした感情に乗じて勢力を拡大してきた。しかも、たとえ政府軍がアンバル州を奪還しても不満は簡単には解消されそうにない。

 故郷を追われたスンニ派住民は、自宅に戻れる日をひたすら夢見ている。だがファルージャは戦闘の真っただ中、ラマディは瓦礫の山と化した今、彼らの多くには戻る場所さえない。


ppsunni04.jpg(バグダッド中心部のスンニ派地域であるアダミヤ地区で綿菓子を売る男性。この地区は国内各地から戦闘を逃れてきたスンニ派住民の受け皿となっている。イラク国民の10%以上が故郷を追われ、避難生活を送っている。)Moises Saman-Magnum Photos


ppsunni05.jpg(トレーラーハウスで暮らすワサン・ハサン〔30〕と息子のラミ〔10〕。昨年春にラマディがISISの支配下に入ると、母子はバグダッドのアダミヤ地区に身を寄せた。ハサンは06年、米軍とスンニ派勢力の戦闘で発射されたロケット弾によって妹を失い、自身も両脚をなくした。以来、車椅子生活を送っている。)Moises Saman-Magnum Photos


ppsunni06.jpg(スンニ派住民が多数を占めるアルブ・アジール村の自宅で絵を描く10歳の少女サラ・アドナン・モハメド。人口2万人のこの村に近い町ティクリートは14年6月にISISに制圧され、昨年4月に政府軍に奪還された。サラの一家は1年以上の避難生活を経てようやく村に戻ったが、村の大部分は破壊され、一家の自宅も一部が焼け落ちていた。)Moises Saman-Magnum Photos


Photographs by Moises Saman-Magnum Photos

撮影:モイセス・サマン
1974年、ペルーのリマ生まれ。米カリフォルニア州立大学でコミュニケーション社会学を学ぶ。米新聞社でスタッフ・フォトグラファーとして中東などの紛争を取材し、2007年からフリーランス。世界的写真集団マグナム・フォト会員。2月にアラブの春をテーマとした写真集『ディスコーディア』を発表


<本誌2016年3月29日号掲載>

「Picture Power」の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ビジネス

米中古住宅販売、1月は4.9%減の408万戸 4カ

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中