インダストリー4.0やIoTが生み出す付加価値とは
大量生産から、ベストマッチングな多品種生産へ
日本の企業でインダストリー4.0について講演させていただくことも多いのですが、このプロジェクトに対する注目の高さはひしひしと感じています。ただ、いかんせん実際の行動に移すのに時間がかかっているのが残念です。
例えばドイツのダイムラー社は2025年には自動運転機能を持つスマートトラックを実用化すると表明しています。これだけ聞くと「できっこないだろう」「大風呂敷だ」と、つい高をくくってしまう。それは10年後の世界を1枚の絵としてイメージしているからです。実際には10年後の完成へ向けてマイルストーンを細かく設定しているわけで、時間軸を引き延ばせばダイムラーのビジョンは絵に描いた餅ではない、極めて現実的な目標であると分かります。**
インダストリー4.0で描かれるビジョンを懐疑的に見て悠長に構えているのは時間の浪費です。2、3年ぼやぼやしていたら、この世界では立ち遅れてしまうでしょう。デジタルバリューチェーンのネットワーク化が進行して、あわてて自分たちも仲間に入れてほしいと思ったところで一朝一夕に工場のデジタル化は実現できません。残された時間はそれほど多くないと思っていただいた方がいいと感じます。
日本企業の方々にはちょっと耳の痛い話になってしまったかもしれませんね。1980年代まで日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われ、製造業では世界の最先端を走っていたわけです。その成功体験に乗って今があるので、現状のビジネスモデルを大きく変えるのは勇気がいることもよく承知しています。
しかしながら、大量生産ばかり続けていては多様化する消費者のニーズに対応できませんし、コスト競争でも劣勢に立たされます。いま私たちは本当に必要なものだけを必要なだけ作る多品種生産の時代、より効率化されたベストマッチングを追求する時代の入り口に立っているのです。そのテクノロジーを生み出してビジネスモデル化した人たちがこれからの製造業の覇者になるでしょう。
素晴らしい製造技術を持つ日本企業だからこそ、ソフトウェアの力をプラスすればグローバルなマーケットをリードする存在になれるはず。そんな明るい未来へ向けて一歩を踏み出してほしいと願っています。
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(2015.12.8 港区の三菱UFJリサーチ&コンサルティング 本社オフィスにて取材)
text: Yoshie Kaneko
photo: Tomoyo Yamazaki
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社はコンサルティング事業、国際事業、政策研究事業、人材開発事業、会員事業、マクロ経済調査などを展開している。資本金20億6千万円、従業員数約700名、コンサルタント数約400名。
http://www.murc.jp
* インダストリアル・インターネット(産業のインターネット)はエネルギー、ヘルスケア、製造業、公共、運輸といった幅広い分野をスマート化する取り組み。ゼネラル・エレクトリックが提唱した。2016年1月現在、インダストリアル・インターネット・コンソーシアムに参加する企業は世界から220社以上に上っている。
** 中国も2015年に発表した「中国製造2025」において、2025年までにITを活用して製造業全体の効率や水準を高めると宣言。中国版インダストリー4.0ともいえるプロジェクトがスタートした。
尾木蔵人(おぎ・くらんど)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 国際営業部副部長。ドイツ連邦共和国ザクセン州経済振興公社日本代表部代表。1985年東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。ドイツ、オーストリア、ポーランド、UAE、英国に合わせて14年駐在。日系企業の海外進出支援に取り組み2005年ポーランド日本経済委員会より表彰。日本輸出入銀行(現・国際協力銀行)出向。アジア諸国向けIMF、世界銀行、アジア開発銀行協調融資等担当。2014年より現職。日本経済調査協議会 人工知能研究委員会 主査、企業活力研究所 ものづくり競争力研究会 委員、IVI(インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ)学術メンバー。