最新記事

インタビュー

インダストリー4.0やIoTが生み出す付加価値とは

2016年6月24日(金)16時55分
WORKSIGHT

大量生産から、ベストマッチングな多品種生産へ

 日本の企業でインダストリー4.0について講演させていただくことも多いのですが、このプロジェクトに対する注目の高さはひしひしと感じています。ただ、いかんせん実際の行動に移すのに時間がかかっているのが残念です。

 例えばドイツのダイムラー社は2025年には自動運転機能を持つスマートトラックを実用化すると表明しています。これだけ聞くと「できっこないだろう」「大風呂敷だ」と、つい高をくくってしまう。それは10年後の世界を1枚の絵としてイメージしているからです。実際には10年後の完成へ向けてマイルストーンを細かく設定しているわけで、時間軸を引き延ばせばダイムラーのビジョンは絵に描いた餅ではない、極めて現実的な目標であると分かります。**

 インダストリー4.0で描かれるビジョンを懐疑的に見て悠長に構えているのは時間の浪費です。2、3年ぼやぼやしていたら、この世界では立ち遅れてしまうでしょう。デジタルバリューチェーンのネットワーク化が進行して、あわてて自分たちも仲間に入れてほしいと思ったところで一朝一夕に工場のデジタル化は実現できません。残された時間はそれほど多くないと思っていただいた方がいいと感じます。

 日本企業の方々にはちょっと耳の痛い話になってしまったかもしれませんね。1980年代まで日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われ、製造業では世界の最先端を走っていたわけです。その成功体験に乗って今があるので、現状のビジネスモデルを大きく変えるのは勇気がいることもよく承知しています。

 しかしながら、大量生産ばかり続けていては多様化する消費者のニーズに対応できませんし、コスト競争でも劣勢に立たされます。いま私たちは本当に必要なものだけを必要なだけ作る多品種生産の時代、より効率化されたベストマッチングを追求する時代の入り口に立っているのです。そのテクノロジーを生み出してビジネスモデル化した人たちがこれからの製造業の覇者になるでしょう。

 素晴らしい製造技術を持つ日本企業だからこそ、ソフトウェアの力をプラスすればグローバルなマーケットをリードする存在になれるはず。そんな明るい未来へ向けて一歩を踏み出してほしいと願っています。

WEB限定コンテンツ
(2015.12.8 港区の三菱UFJリサーチ&コンサルティング 本社オフィスにて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Tomoyo Yamazaki

wsOgi_site.jpg三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社はコンサルティング事業、国際事業、政策研究事業、人材開発事業、会員事業、マクロ経済調査などを展開している。資本金20億6千万円、従業員数約700名、コンサルタント数約400名。
http://www.murc.jp

* インダストリアル・インターネット(産業のインターネット)はエネルギー、ヘルスケア、製造業、公共、運輸といった幅広い分野をスマート化する取り組み。ゼネラル・エレクトリックが提唱した。2016年1月現在、インダストリアル・インターネット・コンソーシアムに参加する企業は世界から220社以上に上っている。

** 中国も2015年に発表した「中国製造2025」において、2025年までにITを活用して製造業全体の効率や水準を高めると宣言。中国版インダストリー4.0ともいえるプロジェクトがスタートした。

wsOgi_portrait.jpg尾木蔵人(おぎ・くらんど)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 国際営業部副部長。ドイツ連邦共和国ザクセン州経済振興公社日本代表部代表。1985年東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。ドイツ、オーストリア、ポーランド、UAE、英国に合わせて14年駐在。日系企業の海外進出支援に取り組み2005年ポーランド日本経済委員会より表彰。日本輸出入銀行(現・国際協力銀行)出向。アジア諸国向けIMF、世界銀行、アジア開発銀行協調融資等担当。2014年より現職。日本経済調査協議会 人工知能研究委員会 主査、企業活力研究所 ものづくり競争力研究会 委員、IVI(インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ)学術メンバー。

※当記事はWORKSIGHTの提供記事です
wslogo200.jpg


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中