中国美的の独クーカ買収、自由貿易派メルケル首相のジレンマに
西欧の近隣諸国と比べて経済における製造業のシェアが大きいドイツは、IT(情報技術)と製造業のデータ活用プロセスを融合して最大限の効果を得ることによってのみ現在の優位を保持することができると考えている。
メルケル政権はシーメンスやボッシュ[ROBG.UL]などとともに、クーカを「インダストリー4.0」におけるドイツのモデル企業とみなしている。
同社の強みの1つはロボットと人のコミュニケーション分野だ。この分野は「ビッグデータ」が顧客の要望に沿った新商品を開発するのに役立つとみられている。
クーカのティル・ロイター最高経営責任者(CEO)はこれまで、同社の独立を維持するとする美的の約束を歓迎するとしている。
2008年の対外貿易法改正により、ドイツ政府は戦略的に重要な企業を保護するための拒否権を獲得した。しかし、拒否権を実際に発動すれば、自由貿易を標榜するドイツに対する深刻な疑念を生じさせかねない。
14年にカナダのブラックベリーが、ドイツ政府向けに暗号化通信機器を生産している独Secusmartを買収した際、ドイツ政府は一定の保証を得ることもできたが、買収計画を危機に追い込むことを望まなかった。
その一方で12年には、メルケル首相は、BAEシステムズとEADSが合併して巨大防衛企業が生まれることを阻止した。
ドイツは自由貿易を掲げているものの、国内の一部ビジネスリーダーは、美的によるクーカ買収計画が「インダストリー4.0」を推し進める国の努力に水を差すのではないか、と懸念している。
独IT業界のある幹部は匿名を条件に、クーカの技術が「インダストリー4.0」の中核であるにもかかわらず、もっと大きな騒動になっていないことに驚いていると語った。
(Andreas Rinke記者 翻訳:川上健一 編集:加藤京子)