ジョンソン前ロンドン市長のEU=ヒトラー発言、離脱派に逆効果か
平和と安全
さらに目を引くのは、欧州史の教訓に対するジョンソン氏とサッチャー元首相の対照的な見方だ。
EUの前身である欧州経済共同体からの離脱の是非を問う1975年の英国民投票において、サッチャーは保守党の「残留」キャンペーンを打ち出したスピーチのなかで、欧州の統合と平和を直接的に結び付けている。
自分の子供たちが過去2世代の子供たちとは違って欧州の内戦に巻き込まれなかったことに感謝の意を評し、「共同体は私たちに、自由な社会のなかで、過去2世代で得られなかった平和と安全を与えてくれた」と語った。
実用主義的な戦後保守党の政治家にとって、英国が16世紀以降に追い求めてきた、欧州大陸の勢力バランスを維持しようとする政策が、2つの大戦を回避できずに悲惨な結果をもたらしたことは明らかだった。
チャーチルやその後継者たちが学んだ戦略的教訓は、英国が孤立主義や拡大勢力の誘惑に屈したりせず、北大西洋条約機構(NATO)の軍事同盟だけでなく、統合された欧州を構築することに積極的に関与しなければならないということだった。
欧州での英国の立場をめぐるジョンソン氏の見方は、第2次世界大戦中にナチス・ドイツによる侵攻から果敢に国を守ろうと備える高齢の市民兵を題材にした、BBCの人気コメディーシリーズ「ダッズ・アーミー」に近いように思える。
同番組の主題歌は次のように始まる。「ミスター・ヒトラー、われわれが逃げ回っていると考えているなら、誰をからかっていると思っているのか」
これは、ジョンソン氏にも向けられる言葉かもしれない。
(Paul Taylor記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)
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