最新記事

金融政策

日銀のマイナス金利効果、6月の相場展開が分岐点に

黒田総裁は今後の追加緩和に期待を寄せるが、市場には「高い期待は持てない」との声も

2016年5月3日(火)09時59分

 4月28日、日銀は金融政策決定会合で、物価上昇率2%の到達時期を先送りする一方、追加緩和を見送った。直後の市場は株安・円高で反応したが、日銀の思惑通りに展開すれば、マイナス金利政策の効果が実体経済に表れ、株高・円安の地合いに戻ることが予想される。写真は日銀本店(2016年 ロイター/Thomas Peter)

日銀は28日の金融政策決定会合で、物価上昇率2%の到達時期を先送りする一方、追加緩和を見送った。直後の市場は株安・円高で反応したが、日銀の思惑通りに展開すれば、マイナス金利政策の効果が実体経済に表れ、株高・円安の地合いに戻ることが予想される。

政策効果が6月に確認できるかどうかによって、次回の政策対応が予見できそうだ。

黒田東彦総裁はこの日の会見で、目標とする物価2%の到達時期を「2017年度中」に先送りしたにもかかわらず追加緩和を見送った理由について「政策効果の浸透度を見極めていくことが重要と判断した」と説明。

マイナス金利付き量的・質的金融緩和(マイナス金利付きQQE)の効果はすでに金利面に表れており今後、実体経済や物価面にも波及していくと自信を示した。

今回公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、日銀が重視する「物価の基調」を構成する需給ギャップについて「16年度後半以降、緩やかにプラス幅を拡大させていく」と記述。1月の同リポートにおける「15年度末にかけてプラスに転じる」との見方から後ずれさせた。

期待インフレ率については、各種アンケート調査の下振れなどから「このところ弱含んでいる」と認めた。1月会合以降の為替市場における円高進行も、物価の下押し要因に作用した。

このため9人の政策委員が示した消費者物価(生鮮食品除く、コアCPI)の前年比上昇率の見通しは、中央値で2016年度が1月時点のプラス0.8%から、今回はプラス0.5%に大きく下振れた。

一方、2017年度についてはプラス1.7%と1月時点のプラス1.8%からわずかな下方修正にとどまった。マイナス金利導入による金利全般の大幅な低下に伴う実質金利の低下を背景に、多くの政策委員が強い政策効果の発現を新たに織り込んだためとみられる。

しかし、現時点で実体経済に期待通りの政策効果が表れるかは不透明。むしろ、海外経済に不透明感が漂う中で、足元では輸出や生産が低迷を続けており、個人消費の動きも鈍い。

黒田総裁は会見で、マイナス金利の政策効果が実体経済に波及するタイミングについて「1、2カ月で出てくるものではないが、半年、1年とはかからない」と述べた。

具体的な効果については、これまで金利低下に伴う設備投資や住宅投資の活発化を指摘しており、導入から半年が経過する今年夏場ごろにそうした動きが確認されるかどうかが、日銀の今後の政策運営を占ううえで焦点になりそうだ。

<追加緩和、期待できない>

事前に追加緩和観測が広がっていた市場では、政策維持を受けて失望感が広がり、大幅な円高・株安が進行している。総裁は会見で、物価目標の実現に必要となれば「ちゅうちょなく量・質・金利の3つの次元で追加的な金融緩和措置を行う考えにまったく変わりはない」と再三表明。マイナス金利についても「まだまだいくらでも深掘りできる」と追加緩和を辞さない姿勢を強調した。

もっとも市場では、今回の追加緩和見送りを受けて「追加緩和に対し、今後高い期待は持てない」(大和証券・日本株上席ストラテジストの高橋卓也氏)との声もある。

黒田総裁はマイナス金利の効果について「株高や円安方向の動きが生じ、企業収益を押し上げ、雇用や賃金の改善をもたらす」とも説明している。

ただ、マイナス金利の効果については、イールドカーブの全般的な低下を通じ、短期的に銀行の業務純益を大幅に押し下げるとの見方が多くなっている。

また、実質金利が低下しても「実際に貸出需要が目立って増加している気配はなく、今のところマイナス金利の設備投資押し上げ効果は限定的」(大手銀関係者)との指摘もある。

市場では、日銀が仮に政策維持を決めても、6月の追加緩和に期待が残り、大きな市場変動はないとの予想も一部でささやかれていた。

しかし、ふたを開けてみると、ドル/円は3円超円高方向にシフトし、日経平均<.N225>は前日比624円安の1万6666円まで下落。リスクオフ心理が再燃しかねない地合いになっている。

次回の金融政策決定会合は、6月15、16日。それまでにマイナス金利付き量的・質的金融緩和政策の効果が出て、株高・円安が進んでいるのか。それとも株安・円高の地合いがジワジワと強まり、追加緩和期待が高まっているのか──。

「政策維持」の波紋は、当初の想定を上回って日銀の足元にも押し寄せている。

(伊藤純夫 編集:田巻一彦)



[ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中