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金融政策日銀のマイナス金利効果、6月の相場展開が分岐点に
黒田総裁は今後の追加緩和に期待を寄せるが、市場には「高い期待は持てない」との声も
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4月28日、日銀は金融政策決定会合で、物価上昇率2%の到達時期を先送りする一方、追加緩和を見送った。直後の市場は株安・円高で反応したが、日銀の思惑通りに展開すれば、マイナス金利政策の効果が実体経済に表れ、株高・円安の地合いに戻ることが予想される。写真は日銀本店(2016年 ロイター/Thomas Peter)
日銀は28日の金融政策決定会合で、物価上昇率2%の到達時期を先送りする一方、追加緩和を見送った。直後の市場は株安・円高で反応したが、日銀の思惑通りに展開すれば、マイナス金利政策の効果が実体経済に表れ、株高・円安の地合いに戻ることが予想される。
政策効果が6月に確認できるかどうかによって、次回の政策対応が予見できそうだ。
黒田東彦総裁はこの日の会見で、目標とする物価2%の到達時期を「2017年度中」に先送りしたにもかかわらず追加緩和を見送った理由について「政策効果の浸透度を見極めていくことが重要と判断した」と説明。
マイナス金利付き量的・質的金融緩和(マイナス金利付きQQE)の効果はすでに金利面に表れており今後、実体経済や物価面にも波及していくと自信を示した。
今回公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、日銀が重視する「物価の基調」を構成する需給ギャップについて「16年度後半以降、緩やかにプラス幅を拡大させていく」と記述。1月の同リポートにおける「15年度末にかけてプラスに転じる」との見方から後ずれさせた。
期待インフレ率については、各種アンケート調査の下振れなどから「このところ弱含んでいる」と認めた。1月会合以降の為替市場における円高進行も、物価の下押し要因に作用した。
このため9人の政策委員が示した消費者物価(生鮮食品除く、コアCPI)の前年比上昇率の見通しは、中央値で2016年度が1月時点のプラス0.8%から、今回はプラス0.5%に大きく下振れた。
一方、2017年度についてはプラス1.7%と1月時点のプラス1.8%からわずかな下方修正にとどまった。マイナス金利導入による金利全般の大幅な低下に伴う実質金利の低下を背景に、多くの政策委員が強い政策効果の発現を新たに織り込んだためとみられる。
しかし、現時点で実体経済に期待通りの政策効果が表れるかは不透明。むしろ、海外経済に不透明感が漂う中で、足元では輸出や生産が低迷を続けており、個人消費の動きも鈍い。
黒田総裁は会見で、マイナス金利の政策効果が実体経済に波及するタイミングについて「1、2カ月で出てくるものではないが、半年、1年とはかからない」と述べた。
具体的な効果については、これまで金利低下に伴う設備投資や住宅投資の活発化を指摘しており、導入から半年が経過する今年夏場ごろにそうした動きが確認されるかどうかが、日銀の今後の政策運営を占ううえで焦点になりそうだ。
<追加緩和、期待できない>
事前に追加緩和観測が広がっていた市場では、政策維持を受けて失望感が広がり、大幅な円高・株安が進行している。総裁は会見で、物価目標の実現に必要となれば「ちゅうちょなく量・質・金利の3つの次元で追加的な金融緩和措置を行う考えにまったく変わりはない」と再三表明。マイナス金利についても「まだまだいくらでも深掘りできる」と追加緩和を辞さない姿勢を強調した。
もっとも市場では、今回の追加緩和見送りを受けて「追加緩和に対し、今後高い期待は持てない」(大和証券・日本株上席ストラテジストの高橋卓也氏)との声もある。
黒田総裁はマイナス金利の効果について「株高や円安方向の動きが生じ、企業収益を押し上げ、雇用や賃金の改善をもたらす」とも説明している。
ただ、マイナス金利の効果については、イールドカーブの全般的な低下を通じ、短期的に銀行の業務純益を大幅に押し下げるとの見方が多くなっている。
また、実質金利が低下しても「実際に貸出需要が目立って増加している気配はなく、今のところマイナス金利の設備投資押し上げ効果は限定的」(大手銀関係者)との指摘もある。
市場では、日銀が仮に政策維持を決めても、6月の追加緩和に期待が残り、大きな市場変動はないとの予想も一部でささやかれていた。
しかし、ふたを開けてみると、ドル/円
次回の金融政策決定会合は、6月15、16日。それまでにマイナス金利付き量的・質的金融緩和政策の効果が出て、株高・円安が進んでいるのか。それとも株安・円高の地合いがジワジワと強まり、追加緩和期待が高まっているのか──。
「政策維持」の波紋は、当初の想定を上回って日銀の足元にも押し寄せている。
(伊藤純夫 編集:田巻一彦)
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