東芝不正会計の本質は、「国策」原発事業の巨額損失隠し
さらに文芸春秋4月号の記事で、東芝社内でやり取りされたメールに基づき、東芝が、新日本監査法人に会計監査を任せる一方で、競合する大手監査法人であるトーマツの子会社に、新日本の監査に対抗するための「工作」の伝授を受け、不正会計が発覚するや、会計監査対策に関わっていたトーマツ傘下の公認会計士を不正の調査に起用した事実が明らかになった。東芝の監査対応に深く関わっていたトーマツの関係者が第三者委の調査を主導していたことは、委員会の調査や判断の公正さに新たに重大な疑念を生じさせるものだった。
監査法人による会計監査の問題が、第三者委の調査の対象外とされた(前記①)のも、第三者委の委員の1人がトーマツの公認会計士で、調査補助者もトーマツの関連会社だったことと無関係ではないように思える。不正が新日本に発覚しないようにするための「工作」に加担したトーマツ自身にも、問題が跳ね返って来かねないとの懸念から、監査法人問題が調査対象から除外されたと疑われるのも致し方ないだろう。
東芝の不祥事対応の最大の問題点は、第三者委員会のスキームを悪用したことだ。「日弁連の第三者委員会ガイドラインに準拠したもの」と説明していながら、実態は東芝の執行部の意向で動く委員会でしかなかった。不正会計への対応で中心とされてきた「第三者委員会スキーム」は、世の中を欺くための「壮大な茶番」でしかなかった。
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東芝不正会計問題の本質は、1990年代に発覚した重電談合の頃から脈々と続く同社の「隠ぺいの文化」と見ることができる。隠ぺいしようとしたのは、「国策事業」である原発事業が福島の原発事故後に、危機的な状況に陥った現実だった。
結局、東芝は今月26日に、2016年3月期の決算で、ウェスチングハウスに関する3000億円規模の損失を減損処理として計上することを発表した。だが、果たしてそれまで減損を行わなかった会計処理に問題はなかったのだろうか、東芝はまだ真実を隠ぺいしようとしているのではないか、徹底した検証が必要だろう。
コーポレートガバナンスには「平時ガバナンス」と「有事ガバナンス」がある。有事の時こそ、社外の視点、すなわち社外取締役の視点が重要となる。早くから委員会設置会社に移行し、コーポレートガバナンスの先進企業と言われた東芝だが、「偽りの第三者委員会」の設置を許し、事業の根幹の原発事業に関する隠ぺいも見抜けなかった社外取締役は、「有事ガバナンス」においてまったく機能しなかった。ガバナンスの充実強化が大きな課題となる中、日本企業は「有事における社外取締役の役割」を真剣に考える必要がある。
<執筆者>
郷原信郎(ごうはらのぶお)
弁護士。55年松江市生まれ。東京大学理学部卒業後、検事任官。広島地検特別刑事部長、長崎地検次席検事などを歴任後、退官。08年に郷原総合コンプライアンス法律事務所を開設。著書多数。近著に『告発の正義』(ちくま新書)、『虚構の法治国家』(講談社)。<公式ブログ「郷原信郎が斬る」>