挑発行為に隠された北朝鮮の本音
今年の演習開始早々、米軍は核弾頭を搭載可能な大陸間弾道ミサイル2発の発射実験を行い、核による先制攻撃能力を見せつけた。それは「『そっちも核を保有しているつもりかもしれないが、こっちには先制攻撃能力がある』という北朝鮮への警告だ」と、元CIAアナリストのウィリアム・ブラウンは語る。
とはいえ米政府のある高官によれば、ホワイトハウスには現在も、北朝鮮と対話を開始する用意がある。北朝鮮が核放棄の意思を示さなくても、だ。ベルリンの秘密会合での北朝鮮の提案を考え合わせると、交渉の条件をめぐるオバマ政権の姿勢軟化は両国間の協議再開を意味する可能性があると、専門筋はみている。
北朝鮮に対して外交重視路線で臨むなら、米政府は北朝鮮を今よりもはるかに深く理解しなければならない──専門家らはそう強調する。しかし世界有数の不可解な国が相手となれば、これは簡単な仕事ではない。
北朝鮮を理解できないのは、この国が「神話に包まれてきたためだ」と、元CIA工作員のチャーチは指摘する。「北朝鮮は二枚舌でどんな合意も裏切る、金は頭がおかしい、そんな通念をうのみにするのはたやすい」。ただし、こうした見方はいずれも誤りだという。
金が暴君であることは疑いの余地がない。11年、父親の金正日(キム・ジョンイル)総書記の死を受けて最高指導者になると「政敵」の粛清に乗り出し、叔父で後見人の張成沢(チャン・ソンテク)とその一族も処刑した。
国連の担当者は今年2月、人道に対する罪で金を調査する可能性を、本人に直接伝えるよう国連人権理事会に要請する報告書をまとめた。だがチャーチの言葉を借りれば「残虐でない独裁者がいるだろうか」。
金は常軌を逸した指導者だとの考え方を見直すべきだとの意見は、ほかの専門家も共有している。ニューヨークやソウルを火の海にするという金の脅しは不穏だが、体制転覆の恐怖に対する「自然な反応だ」と言うのは、米国務省の北朝鮮担当官を務めたジョエル・ウィットだ。
アナリストの間では、北朝鮮は崩壊への道を歩んでいるとの見方を退ける声も上がる。深刻な飢餓で11年には数多くの国民が死亡したとされる。地方部での生活は苦しいままとはいえ、現体制の下で経済は安定していると、元CIAアナリストのブラウンは語る。
首都・平壌を訪れた人々によれば、市内にはレストランやバーが続々誕生し、ドル払いのタクシーが行き交い、膨大な数の市民が携帯電話を手にしている。ブラウンいわく、これらは中間層が育っている証し。中間層の繁栄をもたらしているのは、金の限定的な自由市場改革だ。