パナマ文書に激怒するアイスランド国民の希望? アイスランド海賊党とは
海賊党とは?
海賊党はそもそも、2006年にスウェーデンで「デジタルテクノロジーをつかって政治をより良くする」ことを標榜し、「著作権法の改正」「オンライン上のプライバシー保護」「情報の自由なアクセス」などをマニフェストに掲げ設立された。その躍進はインターネットを通じて瞬く間にヨーロッパ中に広まり、同時に海賊党の政策もより包括的なものになっていく。その中には、「液体民主主義」と呼ばれる、インターネットを通じたオンライン投票・熟議システムの導入や、デジタルテクノロジーを使った政治の透明性の推進なども含まれる。2011年、海賊党はドイツ・ベルリンの市議選で得票率8.9%を得て第三党となる。また、スイス、オーストリア、チェコ、スペインの地方議会でも議席を得る。2009年と2014年の欧州議会選挙ではそれぞれスウェーデンとドイツから議席を獲得。2013年にアイスランドの総選挙で得票率5・1%で3議席を獲得し、はじめて国政に進出した。
しかし、「デジタルテクノロジーを駆使した政治運営」がはじめこそネット世代の若者に支持されたものの、経験不足の露呈や内部分裂などから最も趨勢を誇ったスウェーデンやドイツではここ数年支持率が低迷している。
そこへ来て、アイスランドでの海賊党のこの躍進である。
筆者はそんなアイスランド海賊党の人気の秘密を探るべく、パナマ文書流出のちょうど一か月前にアイスランドで現地調査を行っていた。
人気を博すアイスランド海賊党
アイスランドで海賊党は少なくとも1年以上、与党を抑えて国内支持率一位を獲得し続けている。メディアの調査では支持率は大体35%〜40%くらいを推移。党員は2000人くらいだが、誰でも参加できるアイスランド海賊党の公開板の人数は6000人を超える。人口30万人の国でこれは大きな数字だ。
ではアイスランド海賊党の人気の理由は何なのだろうか?
党員によると、様々な理由が組み合わさって今回の支持率上昇につながっているそうだが、一番の理由は「従来型の政治に人々が辟易している」ことにあるのだという。アイスランドでは長い間中道右派の政党が連立政権を握り、政治腐敗が常態化していた。加えて2008年のアイスランド金融危機で国民の政治不信はピークに達する。それを受けた2009年の選挙では長年政権を取っていた独立党が大幅に議席を減らし中道左派政権が誕生するものの、その政権運営に国民の不満が続出。2013年の選挙では再度独立党を中心とする右派政権へと回帰した。
期待を持って投票した左派政権への落胆、そして旧来の腐敗した政権への逆戻り―そんな状況に悲観し、政治に対してあきらめていた国民の気持ちを吸い上げたのが海賊党だった。
海賊党のやり方はユニークだ。まず、海賊党はトップダウンの政策決定をまるごと否定する。それだけでなく、マニフェストに書かれたふたつの大きな政策(憲法改正とEU加盟)にすら、「これ」といった解答を用意していない。憲法を改正すべきかすべきでないか、EUに加盟するべきかそうでないか―それを決めるのは国民であって、党ではない。海賊党は、国民が議論を尽くすための情報を与え、専門家と利益団体をつなぎ、国民にとって最適の解を出すための「プラットフォーム」として存在する―それが彼らの考えなのである。