最新記事

経営

階層、意思決定、時間感覚......インド事業の文化の壁

2016年4月6日(水)17時58分
ニヒル・ラバル ※編集・企画:情報工場

 最下層とトップ層がどのくらい違うか(またその不平等がどれほど社会的に容認されているか)を知るのは簡単だ。ムンバイでは、大富豪が20億ドルをかけて建てた27階建ての自宅のすぐ外に、職を失って路上生活をするホームレスの家族を見ることができる。ムンバイは2000万人が住む大都市だが、月収が150ドルに満たない人がたくさん暮らしている。インドでビジネスをするには、これほどのスケールで不平等が存在することを頭に入れておく必要がある。

 インド人は(かつての宗主国である)英国の階級制度の伝統を引き継いでいる。それゆえ同じ会社の従業員同士の関係も上下関係を意識した形式ばったものになりやすい。部下が上司のことを当たり前のように「sir」「madame」(※いずれも身分制度の中で「ご主人様」に当たる最上級の敬称)と呼んだりする。加えてヒンドゥー教とカーストの影響もある。階層的な上下関係を重視する文化が確立しているのだ。

 インドの仕事では「公式のチャネルを通す」ことが非常に重視される。たとえば、許可申請に迅速に対応してほしいと思ったら、提出先の担当部局内部の階層構造を調べてみるといい。階層に十分配慮して事を運べば、仕事がより速く進むはずだ。学校の生徒は教師のことを「グル(※ヒンドゥー教の導師の呼称)」と呼び、仕事上の「ボス」には最大級の責任と権力が集中していると見なされる。部下が(一つ一つの仕事について)許可を求めることが、上司への敬意を表すことになる。

 階級制度は、家父長制のもとにある「家族」の中にも見られる。家族の絆がインドという国をまとめているといっても過言ではない。インド人は、あらゆる面で家族を頼る。重要な決定をする際には必ず家族の中の年長者にはかり、承認を得なければならない。インドではいくつもの世代が同居するのが普通だ。そういった環境で育ったインド人は、日常生活だけでなくビジネスにおいても人間関係に価値を見出すようになるのだ。

 インドで事業を展開するにあたっては、家族経営の仕組みを理解することが課題の一つといえるだろう。インドの企業は、小さな路面店から多国籍の大企業まで、大多数が家族経営だ。

 インドの企業は、本当の意思決定者が誰なのかがわかりづらいこともある。「グループ・プレジデント」やら「マネージング・ディレクター」やらの肩書きは、あまり意味をなさない。これは、企業が上場し、新しいルールのもとにガバナンスが行われるようになったとしても変わらない。本当の意思決定者を探し出す努力は続けるべきなのだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中