最新記事

言論統制

中国、「私の名前」は「党」

2016年4月4日(月)16時45分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 そこで鄧小平は1991年の春節前夜、「姓社姓資論議は打ち切りだ! 計画経済ならば社会主義で、市場経済ならば資本主義だというような誤解をするな! 市場経済も社会主義に服務することができる」として、中国を「特色ある社会主義国家」と位置づけ、1992年10月に開催された第14回党大会で、党規約に書き入れたのである。「市場経済を走らせても、資本主義国家ではなく、社会主義国家である」という、最初から矛盾を内包した決着点であった。

 それからというもの、中国人民はみな「銭に向かって」進み始めた。中国建国初期は、毎日のように「向前看(シャンチェンカン)!」(前に向かって進め!)と教育されたものである。庶民はそれをもじって、同じ発音の「向銭看(シャンチェンカン)」(銭に向かって進め!)を、自嘲的に叫ぶようになった。

 そして中国は経済成長し、以来、「姓社姓資」論議は、ピリオドを打ったかに見えた。

習近平総書記による「姓党(メディアの名前は党)」理論

 ところが、2012年11月の第18回党大会で習近平が中共中央総書記になり、まだ国家主席にはなっていなかった2013年1月5日、習近平は総書記として中共中央委員会を開催し、そこで「否定してはならない二つのこと」という重要講話を行なった。

 一つは「改革開放後の歴史を以て、改革開放前の歴史を否定してはならない」で、もう一つは「同時に、改革開放前の歴史を以て、改革開放後の歴史を否定することもできない」というものである。

 これが「姓社姓資」論議を思い起こさせ、2013年の半ば以降から、たとえば「姓"社"姓"資"大論争(1991年)」などという論評が、盛んにネット上に現れ始めた。

 2014年には「姓資姓社問題は根本的には解決していない」という問題提起があったり、2015年9月には「中国社会科学院:きちんと"姓資姓社"問題の大討論を」というものまで出てくるようになる。

 こうして現れたのが、習近平総書記による「媒体姓党(メディアの名前は党)」理論だ。

「中国の名前」は「党」

 現在の中国は、とても社会主義国家と言えるような状況ではない。

 習近平政権が、どんなに反腐敗運動を展開しても、党幹部から腐敗を撲滅させることはできず、むしろ敵を増やしてばかりいる。また労働意欲を抑え込んで経済が冷え込み、貧富の格差や環境問題あるいは医療問題などの民生問題も目立った改善は見られていない。

「特色ある社会主義国家」は結局、「中国共産党の一党支配体制」を維持したまま国家資本主義あるいは官僚資本主義を歩んでいるようなものだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英借入コスト上昇は「懸念」、直ちに格付けに影響なし

ワールド

EUとメキシコ、FTA現代化で合意 トランプ関税の

ワールド

ロシアの燃料輸出、24年は約10%減 ウクライナの

ワールド

原油先物は上昇、対ロ制裁巡り供給懸念根強い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    メーガン妃とヘンリー王子の「山火事見物」に大ブー…
  • 8
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 10
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中