ブロックバスター新薬の薬価引き下げ、医療費削減の一方で対日投資に冷水も
「ハーボニー」のように病気の完治が見込める医薬品は将来的に患者の数が減っていく可能性がある。発売開始時点で売上高が想定を上回ったからと言って薬価が大幅に切り下げられれば、企業は投資回収の機会を失いかねない。
製薬協の川原専務理事は、C型肝炎が肝硬変や肝がんに進行して、さらに膨大な医療費がかかることもあるなか、12週間で完治が見込め、その後、健康な生活も可能となる薬剤に対する「価値」をきちんと考慮すべきと指摘する。
日本への投資回避に懸念
医薬品の候補として研究を開始した化合物のうち、新薬となるのは3万分の1と言われる。各社とも限られた研究開発費を投入するに当たり、どの市場が最も大きい投資リターンを期待できるか優先度を検討する。
特に、世界各国で事業を展開している大手外資系製薬メーカーにとっては、日本は多くの市場のひとつに過ぎず、収益の先行きが読めないとなれば、投資の優先度が低下してしまう。
ファイザー日本法人の梅田一郎社長は、「イノベーションが適切に評価される市場では、投資が増え、画期的な新薬を継続して創出することができるようになる」と述べ、新薬に対する正当なリターンの確保を強調する。医療費削減に比重を置いた変更が続けば「対日投資減少のリスクが高まる」と懸念する。
この他にも、政府の経済財政諮問会議では、現在2年に1回行われている薬価改定を毎年行うことが議論の俎上にのぼるなど、薬価制度をめぐっては不透明な部分が多い。
日本イーライリリーは、世界同時開発・同時発売を開発の方針のひとつとし、2003年には7.2年あった「ドラッグ・ラグ」を15年には0.8年に縮めた。
パトリック・ジョンソン社長は「薬価制度の予測可能性と安定性がなくなれば、投資は他国に行ってしまう。薬価の毎年改定が実施されれば、日本の投資に影響を与えるし、日本イーライリリーの成長にはマイナスの影響を与える」と述べ、2020年に日本でトップ10入りという目標実現には、安定した制度の維持が必要と訴える。
薬価算定においては「新薬創出等加算」や「先駆け審査指定制度」など新薬創出を後押しするための制度もあるが、インパクトの大きな薬価引き下げに、業界内では異論が消えない。厚生労働省では「特例拡大再算定」のあり方について、16年度改定以降も検討を続けることとしている。
(清水律子 編集:宮崎大)