最新記事

朝鮮半島

北朝鮮が韓国に「Facebookでハニートラップ」攻撃

政府関係者のスマホにウイルスを送ったり、美女写真を使ってフェイスブックで友達申請をしたり、韓国へのサイバー攻撃を活発化させている

2016年3月14日(月)15時13分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

元帥様のために 「喜び組」が有名だが、北朝鮮政府は以前から美貌の女性を政治利用してきた(写真は2013年にキノコ工場を視察した金正恩〔キム・ジョンウン〕第一書記、朝鮮中央通信〔KCNA〕が公表) KCNA-REUTERS

 北朝鮮のサイバー攻撃が活発化している。なかには「色仕掛け」を駆使した驚くべき手口があった。

 韓国の国家情報院(国情院)によると、北朝鮮が2月末から3月初めにかけて、韓国政府の主要人物が保有するスマートフォンにサイバー攻撃を仕掛け、一部が成功していたことが判明した。

 その手口は、攻撃対象のスマホに悪性コード(ウイルス)を送り付ける方式。仕掛けられた約2割がウイルスに感染し、韓国政府の主要人物の電話番号、通話の内訳、メールの内容までが持ち去られ、なかには軍関連責任者も含まれていたという。南北間の緊張が高まっているだけに、韓国政府も北朝鮮のサイバー攻撃に警戒を強めている。

 しかし、北朝鮮が仕掛けたのは「スマホ攻撃」だけではなかった。国情院が明らかにした北朝鮮の驚くべきサイバー戦術、それはフェイスブックを通じた「ハニートラップ」。

 北朝鮮がフェイスブックを通じて仕掛けた「ハニートラップ」は、まず実在するNGO機関「平和問題研究所」を装った偽アカウントを作成。美貌の女性写真を掲載し、韓国政府関係者に「友達申請」する。そして、関係者と繋がれば何らかの秘密資料などを要求するというもの。資料の譲渡があったかどうかは不明だが、数十人の関係者が「友達」になっていたという。

 実に大胆かつ、ばかばかしい手口と言えるが、美女を政治に最大限活用する北朝鮮らしいといえばらしい。そもそも、北朝鮮には「喜び組」という美女を利用した統治システムが存在する。

(参考記事:北朝鮮の「喜び組」に新証言...韓国テレビ「最高指導層の夜の奉仕は木蘭組」

 過去には国際スポーツ大会に「美女応援団」を派遣して韓国男性を虜にした。海外の北朝鮮レストランでは、美人接待で外貨を稼ぐなど、体制維持のためには女性の人権そっちのけで、手段を問わない。もっとも、なかにはレストランの美人接待員が、韓国人男性と恋に落ちてしまい「愛の脱北逃避行」に走るケースもあるようだ。

(参考記事:中国で失踪...北朝鮮「美人接待員」たちの素顔

 今のところ、大きな実害は報告されていないが、何人かが繋がってしまったという点では、韓国も脇が甘すぎる。南北間の緊張が高まるなか、まさか北朝鮮がフェイスブックで「ハニートラップ」を仕掛けてくるとは思っていなかったのかもしれない。しかし、相手は女性の人権などお構いなく政治攻勢を仕掛けてくる国家・北朝鮮であることを忘れてはならない。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ――中朝国境滞在記』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)がある。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ戦争志願兵の借金免除、プーチン大統領が法

ワールド

NATO事務総長がトランプ氏と会談、安全保障問題を

ビジネス

FRBが5月に金融政策枠組み見直し インフレ目標は

ビジネス

EUと中国、EV関税巡り合意近いと欧州議会有力議員
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中