北朝鮮では370万台の携帯で噂やデマが広まっていく
携帯電話での会話を通じて国内に不安心理が広まる中で、当局は、全国の各機関、企業に大規模な「制裁糾弾群衆大会」を連日開催せよという指示を出した。思想教育やプロパガンダで不安心理を抑える狙いだが、集会に動員された人々の間では、当局や幹部への不平不満や、不安を煽る噂が飛び交い、それがまた携帯電話を通じて全国に広がるという北朝鮮当局にとっては皮肉な状況となっている。
しかし、いくら携帯電話が普及しているとはいえ、世界的な水準から見ればまだまだ普及率は低く、会話も100パーセント自由に出来るわけでもない。そもそも北朝鮮の庶民達は、携帯に限らず、「情報を知る権利」そして、「政治的な会話をする権利」さえも奪われている。つまり、情報面での人権侵害と言っても過言ではない。対北制裁や金正恩体制をターゲットとした制裁は、表に出てこない「情報における人権侵害」をも浮き彫りにしつつある。
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ――中朝国境滞在記』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)がある。