【再録】1975年、たった一度の昭和天皇単独インタビュー
――科学者として海洋生物学者として、環境問題の現状、日本や世界に広まっている公害についてどんな意見をおもちか。
公害にはさまざまな種類があります。とくに取り上げることができるのは石油による汚染です。世界の国々が協力して防止すべきです。人々が注意深く自然に対処すれば、環境を保護し、生命と自然を守ることは可能だと思います。
――これまで最もうれしかったこと、心が痛んだことは?
最もうれしい思い出は、50年前の欧州視察と、数年前に皇后と再び欧州を訪れたことです。そして今は、アメリカ訪問を楽しみにしています。
最も悲しかったのは、なんといっても戦争です。
――戦後の日本社会における価値観の変化をどう思われるか。また陛下は、現在の道徳的な価値観について納得しておられるのか。
昔のほうがよかったかどうかは、むずかしい問題です。昔にも悪いところはあり、現在にもいいところはありますから、すぐには比較できないと思います。いつになっても、理想の時代というのはありえないものです。
――次代の天皇となられる皇太子明仁親王には、天皇の責務に関してどのような助言をされるか。
皇太子には皇太子なりの意見があるかもしれません。しかし国民の安寧のために行動することが皇室の伝統です。皇太子にもそのような態度を希望します。
――将来は、もっと国民に近い、開かれた皇室になるとお考えか。
私はそれを常に望んでいます。しかし時勢によって、必ずしもそれは容易ではありません。
――陛下は一日だけ一人の一般人となって、誰にも気づかれずに皇居を抜け出し、好きなことをしたいと考えられたことはあるか。もしそうなら、何をしてみたいか。
心の底では、それを望んできました。マーク・トウェインの『王子と乞食』のようなものでしょうか。しかし、もしそれが実現したとしても、結末はおそらく物語と同じようなことになるのかもしれません。
――(日本で人気のあった)アメリカのドラマ『刑事コロンボ』を陛下も見るそうだが、どんなところを楽しんでおられるのか。
時間の都合がつかず、私自身はその番組を見ることはできませんでしたが、一般の国民が非常に楽しんで見たと聞いています。
※このインタビューを行った記者の回顧録はこちら:【再録】昭和天皇インタビューを私はいかにして実現したか
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[2006年2月 1日号掲載]