ヨーロッパを目指しながら事切れる統計なき砂漠の死者たち
だが前出のブラチェット氏によれば、取引が地下に潜るだけで逆効果になる可能性があるという。
「以前は、砂漠の真ん中で難民を放り出すことは、不可能とは言わないまでも非常に難しかった」とブラチェット氏は言う。「闇のビジネス化してしまった今では、乗客を降ろす予定の場所に本当に到着したのかどうか、それとも砂漠に置き去りにしたのか、誰にも分からない」
あるEU当局者によれば、立場の弱い移民の生命を危険にさらしている違法移民斡旋業者などへの対処が優先課題であるという。EUは国境での検問や砂漠での巡視は行っていないものの、訓練や提言といった形で各国当局を支援している。
ニジェール北部にスタッフを置いているIOMは、何人がこの地域を通過しているのか、また彼らがどのような状況に置かれているのかなど、より詳細な情報を集めようと努めている。IOMの推定では、毎週約2300人がアガデスを通過しているという。だが、2015年にサハラ砂漠での死亡が記録されたのは、わずか37人だ。
昨年3月、IOMのスタッフがリビア国境に近いニジェールの小さな村を訪れた。ニジェールにおけるIOMのミッション担当者によれば、1日に85名の難民が斡旋業者に置き去りにされ、木々の下で途方に暮れているのを確認したという。
「旅は非常に困難だ」と同担当者は言う。「彼らの話によれば、途中で多くの人々が亡くなったという」
ニジェール政府にコメントを求めたが、回答はなかった。
ラッキー君を含む生き残り組は、約10時間歩いた末に、アガデスに戻る途中のピックアップトラックに偶然遭遇したという。彼らは目的地までの残りの道を乗せていってくれと運転手に頼み込んだ。
運転手は彼らをリビアのセブハまで運び、武装グループに売り飛ばした。武装グループは自由になりたければ働けと強要したという。ラッキー君が脱走してイタリアにたどり着くまでに、それから数ヶ月を要することになる。
彼らが砂漠に残してきたのは男性4人と女性2人である。決して記録されない死が、また6件増えた。
(Selam Gebrekidan記者、Allison Martell記者)(翻訳:エァクレーレン)