ヨーロッパを目指しながら事切れる統計なき砂漠の死者たち
だが、砂漠を通過しようとした移民92名が渇きのために死亡した2013年の悲劇以来、ニジェール政府がこのルートを封鎖する措置を取ったため、こっそりと隠れて通行する例が増えている。
ラッキー君が乗ったトラックの運転手は砂漠のなかで道に迷ったのち、目印を見つけて正しい道に戻れることを願いつつ、さらに5日間走り続けた。その時点で食料・飲料水は底をついたという。疲労困憊した乗客が夜間にトラックから転落した。運転手は彼らのためにトラックを停めようとはしなかった。
「翌日、明るくなってから人数を数えたら、何人かいなくなっているのが分かった」とラッキー君は語る。現在18歳になった彼は、欧州にたどり着いた後、イタリアのカタニアにある若年者向け難民キャンプで1年間暮らしている。
さらに1日後、トラックの燃料がなくなった。万策尽きた難民たちはあたりを彷徨した。その日の午後、砂嵐が彼らを襲った。
「皆ただ茫然と立ちすくんでた。進むべき方向さえ分からなかった」とラッキー君は言う。「どうすれば砂漠から脱出できるかも分からなかった。そして、多くの人がその場所で亡くなった。友人も倒れ、死んでしまった」
「次に誰が死ぬのか、誰が力尽きるのかも分からなかった。どうすればいいのか。あたりは一面の砂で、われわれは手で砂を掘って、友人を埋めなければならなかった」
「そして、また歩き出した」
移民斡旋は闇の世界へ
ニジェール北部のサハラ砂漠と隣国マリは、麻薬・武器の密輸業者、違法移民斡旋業者、誘拐専門業者、イスラム主義武装グループ(一部はアルカイダと連携)などの巣窟である。
欧州連合はニジェールその他の国に対して、密輸・違法移民を取り締まるよう圧力をかけている。2014年、EUは「不法移民の防止を支援するため」治安部隊の訓練を行うミッションをニジェールで開始。昨年には、ニジェールが移民斡旋を禁止する法案を可決し、斡旋業者は最高30年の懲役を受けることになった。