最新記事

難民

ヨーロッパを目指しながら事切れる統計なき砂漠の死者たち

2016年2月29日(月)21時03分

 だが、砂漠を通過しようとした移民92名が渇きのために死亡した2013年の悲劇以来、ニジェール政府がこのルートを封鎖する措置を取ったため、こっそりと隠れて通行する例が増えている。

 ラッキー君が乗ったトラックの運転手は砂漠のなかで道に迷ったのち、目印を見つけて正しい道に戻れることを願いつつ、さらに5日間走り続けた。その時点で食料・飲料水は底をついたという。疲労困憊した乗客が夜間にトラックから転落した。運転手は彼らのためにトラックを停めようとはしなかった。

 「翌日、明るくなってから人数を数えたら、何人かいなくなっているのが分かった」とラッキー君は語る。現在18歳になった彼は、欧州にたどり着いた後、イタリアのカタニアにある若年者向け難民キャンプで1年間暮らしている。

 さらに1日後、トラックの燃料がなくなった。万策尽きた難民たちはあたりを彷徨した。その日の午後、砂嵐が彼らを襲った。

 「皆ただ茫然と立ちすくんでた。進むべき方向さえ分からなかった」とラッキー君は言う。「どうすれば砂漠から脱出できるかも分からなかった。そして、多くの人がその場所で亡くなった。友人も倒れ、死んでしまった」

「次に誰が死ぬのか、誰が力尽きるのかも分からなかった。どうすればいいのか。あたりは一面の砂で、われわれは手で砂を掘って、友人を埋めなければならなかった」

「そして、また歩き出した」

移民斡旋は闇の世界へ

 ニジェール北部のサハラ砂漠と隣国マリは、麻薬・武器の密輸業者、違法移民斡旋業者、誘拐専門業者、イスラム主義武装グループ(一部はアルカイダと連携)などの巣窟である。

 欧州連合はニジェールその他の国に対して、密輸・違法移民を取り締まるよう圧力をかけている。2014年、EUは「不法移民の防止を支援するため」治安部隊の訓練を行うミッションをニジェールで開始。昨年には、ニジェールが移民斡旋を禁止する法案を可決し、斡旋業者は最高30年の懲役を受けることになった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ブラジルの11月外国直接投資は予想上回る、中銀の通

ワールド

マレーシア外相、カンボジアとタイに停戦再開促す A

ワールド

米CBS、エルサルバドル刑務所の調査報道放映を直前

ワールド

新潟県議会が柏崎刈羽原発再稼働を容認、「地元同意」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 8
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 9
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中