トランプの巧妙な選挙戦略、炎上ツイートと群がるメディア
両陣営の戦略の違いは、20世紀後半のアメリカの国民性と、インターネット時代の国民性の違いも象徴している。
インターネット時代の群集心理を最大限に活用しているのがトランプだ。彼は、移民、女性、イスラム教徒、ライバルなどへの暴言を繰り返すが、これは彼自身の意見を反映しているだけでなく、資金を効果的に使うための戦略でもある。
「自分の資金だけで選挙運動をしている」というトランプの主張には誇張があるが、キャンペーンのコストパフォーマンスが良いのは事実だ。アイオワ州の予備選では、ジェブ・ブッシュが1票の獲得に費やしたコストが5200ドルだったのに対し、トランプは共和党のライバル候補の中で最少の300ドルだった 。トランプは、ほとんど何もキャンペーンをせずにアイオワの予備選で2位になっている。そして、その武器はツイッターを中心にしたソーシャルメディアだ。
トランプは、政治にかぎらずその時話題になっていることについて、素早く極端な意見をツイートする。たとえば、ケイティ・ペリーが離婚したときには、直接本人に「ラッセル・ブランドみたいなルーザー(負け犬)と結婚するなんて、いったい何を考えていたんだ?」と批判するし、エボラ熱が話題になると、オバマ大統領を名指しして「エボラ熱が流行っている国からのフライトを止めろ」と命じるといった調子だ。
【参考記事】トランプは今や共和党支持者の大半を支配し操っている
こうしたツイートは必ず炎上するので、テレビ番組はトランプの動向を連日何時間も語り、インターネットにもトランプの記事があふれる。ライバルたちが、あまり効果がないコマーシャルに数百万ドルもかけているあいだに、トランプはタダでメディアに無料PRをしてもらっているようなものだ。
日本でも、暴言や他人との言い争いが多い人のほうがツイッターのフォロワーは多くなるが、トランプは大統領選に出馬する前から経験としてそれを知っている。無料のツイッターでフォロワーを集め、マスメディアに無料のPRをさせ、1回で数千人を集めることができるラリーで時間とコストの節約をする。それがトランプの巧妙な戦略だ。
ニューハンプシャー予備選までそのトランプと正反対の選挙戦を行っていたのが、ケーシックだ。
政治家としてのキャリアが長く、44歳のマルコ・ルビオや45歳のテッド・クルーズのような新鮮さはない。そして、企業からの資金もジェブ・ブッシュにははるかに及ばない。有力候補とみなされていなかったケーシックは、テレビで話題にならず、ディベートでもなかなか意見を言う時間を与えられなかった。そんな彼がメッセージを伝える場は、タウンホール・ミーティングしかなかった。