サンダース旋風の裏にある異様なヒラリー・バッシング
さらに、60年代ヒッピーの合言葉は「ラブ&ピース」だったが、サンダース支持者たちは、どちらかというと「ラブ」よりも「ヘイト(憎しみ)」の方が強いようだ。
「大学の学費を無料にする」というサンダースの政策に対して、ヒラリーは「私とバーニーが求めることは同じ。けれども、私は現実主義者。できることしか約束しない」と反論するが、サンダースの支持者は許さない。理想主義者の彼らは、少しでも「体制」の臭いがするものを徹底的に攻撃する。
女性で民主党全国委員長のデビー・ワッサーマン・シュルツがスピーチを始めると、すぐにあちこちからヤジが飛び始めた。私は偶然サンダース応援側の席に座っていたのだが、大声でヤジやブーイングをしているのは、私の周囲にいる若い男性たちばかりだ。
席を2つ挟んだ右手の男性は、サンダースの名前をネオンのように光らせたプラカードを胸に掲げ、「You suck!(おまえは最低だ!)」とひっきりなしに大声で叫び続けている 。
これがメディアで噂の「Bernie Bros(バーニー・ブラザーズ)」だ。
サンダース支持者のなかには、ソーシャルメディアやニュースメディアのコメント欄に人格攻撃に近いヒラリー批判を書きこみ、それに反論する女性がいれば、「自分のほうが正しい」という独善的な態度でその女性まで攻撃する若い男性が増えている。彼らは「Bernie Bros」と呼ばれ、インターネットでは以前から話題になっていた。
メディアでは「そういう人がいても、少数だけ。それで苦情を言うヒラリー陣営は大げさ」と捉えていたが、このイベントでヤジを飛ばす若い男は少数ではない。
元女性州知事で現職上院議員のジーン・シャヒーンがヒラリー支持表明のスピーチをしている最中も、ブーイングや大声のヤジは続いた。
60歳くらいのサンダース支持者の女性が、見るに見かねて前に座っている若者に注意したところ、彼は顔を真っ赤にして「憲法修正第1条で保障された表現の自由を知らないのか? 僕には発言の自由がある!」と、注意した女性に向かって怒鳴り始めた。
共和党候補のトランプのイベントでも、応援にかけつけた政治家に悪態をつく支持者がいたが、態度の悪さでは、サンダース支持者はトランプ・ファンと同等だ。
Bernie Brosを見ていると、どうやら「革命」を口実にして、「体制」を象徴するヒラリーやその支持者を血祭りにあげることで自己満足に浸っている若い男性が少なくないようだ。
【参考記事】サンダースを熱狂的に支持する若者たちは、民主主義を信じていない
一般論では「若者が政治に関心を抱き、参加するのは良い事」なのだろうが、Bernie Brosを目撃した今は、疑問を感じずにはいられない。
妥協を許さない「オール・オア・ナッシング」の理想を貫けば、社会は機能しなくなるし、戦争を回避することもできない。ヒラリーを叩きのめして、11月の本選で共和党候補を勝たせれば、極右の最高裁判事を任命し、「女性が中絶を選ぶ権利」や「同性婚の権利」が撤回される可能性もある。その危険を訴えるLGBTや人権理事会のメンバーからの意見には、サンダースの熱狂的支持者は耳を傾けようとはしない。
そんな若者たちが、「票」という武器を手にしてソーシャルメディアで仲間に「革命」を呼びかける現状こそが、アメリカの民主主義の危機なのかもしれない。
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