最新記事

スタンフォード大学 集中講義

ある女性の人生を変えた、ビル・ゲイツがソファに座った写真

「成功への道筋をイメージする」――米名門大学で教えられている人生を切り拓く起業家精神の教え(3)

2016年2月17日(水)11時45分

イメージを持て おなじ部屋でおなじ角度から撮られた2枚の写真を見て、ビル・ゲイツのような世界的企業のリーダーとなる自分の姿を想像できた EdStock-iStock.

 自分には「大きなビジョンを描いて羽ばたけた経験」も「小さなビジョンに縛られた経験」も両方あると、スタンフォード大学の起業家育成のエキスパート、ティナ・シーリグは言う。一体どういう意味だろうか。

 シーリグは新刊『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)で、ビジョンを描くことの大切さを訴えているが、事はそう単純ではない。自分にはここまでしかできないと思い込み、それ以上の可能性に気づけなくなってしまうことも時にあるのだ。ビジョンそのものがチャンスの幅を狭めてしまうのである。

 とはいえ、そんな"限界"はほんの一瞬で消えるもの。以下、同書の「第2章 ビジョンを描く――世界があなたの舞台」から、ある女性の人生を変えた1枚の写真のエピソードを抜粋する。

◇ ◇ ◇

 幸い、自分自身に対するイメージは変幻自在で、瞬時に変えることができます。これは、まさにアン・ミウラ=コウに実際に起きたことでした。科学者の娘としてカリフォルニア州パロアルトで育ったアンは、医者か研究者になるものと思われていました。イェール大学に進学すると、電子工学を学ぶかたわら、学費の足しにするために学部長室で事務のアルバイトをしました。

 一九九二年の冬のある日、学部長からある訪問者を案内するよう頼まれました。このとき、アンがパロアルト出身だと知った訪問者から、春休みにパロアルトに戻ったら自分の鞄持ちをする気はないかと誘われます。どんな仕事かと尋ねたところ、なんと相手はヒューレット・パッカード社の社長ルー・プラットでした。アンは興味津々で、この誘いを受けました。

 ヒューレット・パッカード社で、ルーの後をついて回ったアンは、実際にどのように会議を仕切り、意思決定を行なうかを目の当たりにしました。あるとき、ルーの提案で、彼の執務室で一緒に写真を撮ることになり、白いソファのルーの向かいに座りました。数週間経って送られてきた手紙には、アンの写真の他にもう一枚写真が同封されていました。おなじ週に、おなじ部屋で撮られたもので、ルーの向かいにはアンではなく、マイクロソフト社の社長のビル・ゲイツが座っていました。共同事業に合意し、サインするところでした。

 アンは、おなじ部屋でおなじ角度から撮られた二枚の写真を見比べました。ゲストは二人ともおなじソファに座っています。この瞬間、アンには違う人生が見えました。将来の壁が取り払われ、世界的企業のリーダーとなる自分の姿が想像できたのです。アンは聡明でやる気もありましたが、自分が世界の舞台で活躍できるなどと考えたこともありませんでした。それが、一瞬で何もかも変わったのです。

 時間を一気に早送りして二〇一五年現在、アンは、パロアルトでフラッドゲート・ファンドのパートナーを務めています。スタンフォード大学で工学博士号を取得した後、二〇一〇年にマイク・メイプルズと共同で設立したファンドです。世界的に影響力のある初期段階のスタートアップ企業にアドバイスし、シリコンバレーでも特に影響力のあるリーダーとして評判です。

 アンの物語が示しているように、たいていの人は自分が生きている舞台に疑問をもちませんし、自分の影響力が広がることが心地いいとも感じません。ですが、そうした見方は、ほんの一瞬で変わることがあります。何気ない会話や一冊の本、一本の映画、あるいはたった一枚の写真が、自分の未来像をがらりと変えてしまうことがありえるのです。

◇ ◇ ◇

 一方、シーリグは本書で、「叶えたい目標をイメージするだけでは不十分であること」も示している。将来をイメージするだけだと、それに注ぎ込むエネルギーが低下することが実験から明らかになっているという。要するに、目標にたどり着くまでに克服すべき障害についてもイメージしておく必要があるのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、農務長官にロフラー氏起用の見通し 陣営

ワールド

ロシア新型中距離弾、実戦下での試験継続 即時使用可

ワールド

司法長官指名辞退の米ゲーツ元議員、来年の議会復帰な

ワールド

ウクライナ、防空体制整備へ ロシア新型中距離弾で新
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中