最新記事

金融政策

世界経済に新たな火種、金融政策限界説が市場の不安を増幅

マイナス金利で先行した欧州は企業の不安感が台頭し、1年半が経過しても成長は横ばい

2016年2月11日(木)11時54分

2月10日、昨年来の動揺が収まらない市場に、金融システム不安という新たな火種が浮上した。都内の日銀本店前で昨年6月撮影(2016年 ロイター/Toru Hanai)

 昨年来の動揺が収まらない市場に、金融システム不安という新たな火種が浮上した。世界的な景気減速などを背景に金融機関の業績不振が目立ってきたためだが、現在は有効な追加緩和策や最悪時の公的資金注入といった政策の支えが期待しづらい情勢。実際に問題が表面化した際、事態の深刻化を避ける手立ては乏しいのではないかとの懸念が、市場の悲観論を増幅させている。

金融システムの背を折る「最後のわら」

 2日間で日経平均<.N225>が1300円弱下落、長期金利が初のマイナスへ転じた今回の混乱。きっかけとして有力視されているのは、ギリシャ懸念の再燃だ。来週から始まる国際債権団の改革審査が長期化するとの懸念から、8日のアテネ市場で銀行株が24%暴落。長期金利や保証コストを示すクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)スプレッドが、半年ぶりの水準へ跳ね上がった。

 懸念の連鎖がまず直撃したのは、ギリシャなど周縁国と直接深い関係を持つ欧州銀。過去最大の赤字を計上した直後のドイツ銀行や利益半減の仏BNPパリバなど、問題が再燃すれば一段の波乱は避けられないとの見方が広がった。

 欧州銀は多数のリスクに直面する。新興国ビジネスの停滞、原油安によるクレジット悪化、マイナス金利政策で失われる収益機会、株価などの資産価格急落、不良債権処理の遅れ──。その中で浮上したギリシャ問題は懸念の段階であっても、荷物をたくさん背負ったラクダの背を折る「最後のわら」(外銀幹部)となる可能性があった。

 相次ぐ銀行業績への懸念は、金融システム不安にも直結しかねない。欧州銀の関連CDSは軒並み数年ぶりの水準へ上昇した。2008年に付けた異例の高水準には及ばないが、突然始まった急騰は関係者の耳目を広く集めている。

 米国も他人事ではない。中国混乱や原油安が長期化し、金融環境は着実にタイト化。米連邦準備理事会(FRB)の調査では、昨年第4四半期に商工業向けの融資基準を厳格化させる動きが相次いだ。2期連続の基準引き上げは09年以来。

 米市場では、社債などクレジットに異変が表れている。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチが算出する社債と国債の利回り格差は、12年以来の水準へ拡大。米ダラス地区連銀のカプラン総裁は、信用スプレッドの拡大を「とりわけ注視している」と指摘し、警戒感をあらわにしている。

マイナス金利の効力、住宅ローンのみ

 金融機関の業績悪化やシステム不安に対する懸念は、危機後も何度か浮上した。今回、従来とは異なる激しい反応を示した背景にあるのが、政策の限界説だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中