中国製おもちゃ購入もドル建て、人民元取引の実態
AFEXの営業担当ディレクターであるジェームス・コリンズ氏によれば、彼が担当している企業顧客150社のうち、人民元建てで本格的な取引を行っている企業は1社もないという。中国側の消極姿勢が原因だ。「サービスとしては提供しているし、注目してくれる顧客も多いのだが、相手方が応じてくれる例が1つもない」と同氏は語る。
利用は急増したが
中国は昨年、今後のグローバル経済・金融ヒエラルキーのなかで自国の地位を固めるには人民元の国際通貨化が不可欠の要素になると考え、そのための取り組みを強力に推し進めた。
国際銀行間通信協会(SWIFT)のデータによれば、人民元は現在、国際決済において5番目に多く用いられている通貨だ。銀行間大口取引プラットフォームでの人民元利用が急増したことにより、最も取引量の多いひと握りの通貨の1つとなることが多いという。
だが、この10年間に中国企業が膨大なドルを稼いだことが、2008年以来の米国の超低金利とも重なり、投資・貿易分野ではこれまで以上にドルが日常的に利用されるようになっている。
国際通貨基金(IMF)が昨年、ベンチマークとなる通貨バスケットの構成通貨に元を追加することを承認したため、近い将来、元は世界全体の中央銀行準備金のうち10%近くを占めるようになるはずだ。
だが、この2年間で大幅に増大しているとはいえ、国際決済全体のなかでの利用率は、ドルが52%であるのに対して、元はわずか2%だ。財・サービスの貿易においては0.5%にも満たない。
中国企業は依然として約1兆ドル相当のドル建て債務を抱えており、毎月数十億ドル単位で返済・利払いを行っている。その資金の大半はオフショア口座に入り、中国には流入しない。
AFEXの別の顧客であるボブ・レイサム氏は、中国の工場から強化複合材料と艶出し材を購入し欧米の顧客に販売しており、その代金約10万ドルを毎月支払っている。
「人民元で支払うと工場側には提案してみた。できるだけ彼らが製品を販売しやすいようにしてあげることは、こちらの利益にもなる。そうすれば、我々が先方にとっていちばん使いやすい販路になるからだ」とレイサム氏は言う。
「ところが、かなりおかしなことになっていたようだ。彼らは外国の銀行に口座を持っており、対外輸出はすべてその口座で処理している。だから我々が人民元で支払おうとすると、彼らはそれを米ドルに替えてから、その米ドルを送金して、また人民元に替える。どんな理屈やメリットがあるのか理解できなかった」と同氏は語る。
金利のアヤ
こうした状況とは矛盾するが、HSBCやスタンダード・チャータード、シティなどの銀行を中心として、企業は人民元の採用を盛んに宣伝している。トレーディング業務や利益が減少しているなかで、銀行各行にとっては、人民元取引は貴重な成長市場なのである。