悩める共和党の見えない自画像
問題は、主流派のお気に入りであるジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事がまったく振るわないことだ。ブッシュが共和党候補指名レースに出馬した当時は、ジョージ・W・ブッシュ前大統領の弟であることが、足を引っ張りかねないと懸念された。だが、現実はそこまでにも至っていない。豊富な選挙資金や党中枢とのコネはあっても、ブッシュ本人に魅力的な候補者としての資質がない。
党内エリート層は、草の根の保守層の支持でトランプ、または超保守派のテッド・クルーズ上院議員が党トップに君臨する事態を恐れ、ブッシュ以外の候補者に目を向けざるを得ない状況になっている。
彼らにとっての救世主は、マルコ・ルビオ上院議員かもしれない。若く弁舌爽やかなルビオは、キューバ移民2世で労働者家庭の出身。クリントンとは、あらゆる点で対照的だ。
だが難点は、同じく主流派の支持を求めて争うライバルが多いこと。トランプとの首位争いに持ち込むだけの勢いを得ることは、ルビオには不可能に近い。泡沫候補が脱落すれば事情は変わるかもしれないが、それまでの間、共和党の悩みは続く。
ただし、民主党にも問題がないわけではない。大本命のクリントンは、好き嫌いが分かれる人物だ。政治の世界で長いキャリアを持つ彼女には、根っからの民主党支持者でさえ飽きていると言えなくもない。
クリントンが大統領選で勝利したとしても、各州政府は共和党優勢のままで、民主党が近い将来に連邦下院で多数派に返り咲く可能性もないため、政治が停滞するのは確実だ。さらに悪いことに、民主党指導部は私的な場で、若手の有望株が不足していると認めている。
とはいえ民主主義体制では、政党が浮き沈みを経験するのは当たり前。それがあるから、政党は進化する。少なくとも民主党は、民主党を定義するものが何かを心得ている。一方、共和党の側はそう言い切れない。
今の共和党はアイデンティティーの危機に見舞われている。大統領選の結果がどうであれ、共和党は自らが象徴するものを理解し、それ以外のものを捨て去らなければならない。
[筆者]
ウィリアム・ドブソン(本誌コラムニスト)
スレート誌政治・外交担当エディター。カーネギー国際平和財団客員研究員や外交専門誌フォーリン・ポリシー編集長などを経て現職
≪ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート≫
[2016年1月12日号掲載]