米爆撃機が中国の人工島上空を飛んだことの意味
「9月の米中首脳会談以後、中国が一方的に譲歩しているように見える」というのは、ワシントンにいる友人たちから届く声だ。サイバー・セキュリティーに関しても、中国が譲歩しているように見える。
米国メディアは、9月の習近平国家主席の訪米を前に、中国当局が、米国の要請により数人のハッカーを逮捕していたと報じている。中国は、さらに、企業などを標的とするサイバー攻撃を実施しないと米国に約束し、12月1日及び2日には、初の米中閣僚級サイバー対話にも応じた。
また、中国は、11月30日からパリで開催された「国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)」では、指導力を発揮したい米国に同調した。発展途上国の代表を自任する中国が、会議で発展途上国の非難を浴びることになっても、である。
中国国内の大気汚染問題解決のために、外圧を利用したいという思惑があるにしても、中国独自の指導力を発揮しようとせず、米国に同調したのは、米国の圧力が関係していると考えれば納得がいく。
オバマ大統領は、会議初日に行われた米中首脳会談で、習近平主席に対して、米国に同調するよう求めていたし、その直前の11月20日には、米海軍が、年内にも、再度、米海軍艦艇が中国人工島の12海里以内の海域に進入する可能性がある、と述べていたのだ。
しかし、サイバー対話に関する、米司法省の発表を見る限り、中国の譲歩は見せかけのものに留まっているようだ。米司法省の発表によれば、米中双方は、サイバー犯罪対処のガイドラインの作成、机上演習の実施、米中首脳間のホットラインの設置、サイバー犯罪対処における協力の強化等について合意した。
予期せぬ軍事衝突の可能性も
これら合意項目は米中協力の印象を与えるものではあるが、実際に合意したのは、これから協力を進める、ということだけである。そして、2回目の閣僚級サイバー対話の実施も合意された。次回以降、具体的な中身を話しましょう、ということだ。サイバー対話が行われたこと自体は、前向きに評価しつつも、米国務省幹部は、「中国には大きな期待をしないようになった」と話す。
中国は、表面上、譲歩の姿勢を見せつつ、実際には、米国が満足できるような回答をしていない。国務省でさえ、いつまでも、誠実な対応を見せない中国の態度をみて、中国との議論に見切りをつけているということである。
しかし、中国に、米国に対する譲歩を決心させないのは、米国自身かもしれない。オバマ大統領と国防総省の対立が、オバマ大統領が軍事力の行使を避けようとしていることを示しているからである。中国は、表面上、譲歩の姿勢を示しておけば、米国は、中国に対して軍事力を行使しないのではないかと考え、様子を見ているのだ。そして、中国は、米国が軍事力を行使しないと考える間は、軍事力等による影響力の拡大を継続する。