南米の石油大国ベネズエラから国民が大脱走
だがボリバルの購買力の最も的確な指標とされる闇ドル市場の為替レートは現状で1ドル=890ボリバルくらい。これで計算すると、改定後の最低給与でも約11ドルにすぎない。
これでは生活が成り立たない。だからトティのように教養のある中産階級の人たちでも、財産のほとんどを売り払って現金に換え、別な国に移って一からやり直したくなる。ちなみにトティの店はまだ客足が伸びないが、それでも家族が暮らしていくだけの収入はあるという。
ベネズエラの首都カラカスにある世論調査会社ダタナリシスによれば、国外への移住を具体的に考えている国民の割合は、10年前は4%だったが、現在は約30%と推定される。そして最近、渡航費用をできるだけ抑えたい人の間で人気の高まっている国の1つがエクアドルだ。
エクアドルはたいていの国からの入国者に事前のビザ取得を求めていない。だから渡航費用さえ工面できれば、いったん入国してからビザを申請すればいい。今年の移住者数はまだ発表されていないが、同国に入国したベネズエラ人は昨年実績で8万8000人超。13年の6万4000人よりだいぶ増えた。
もちろん、誰もが国外移住に賭けるわけではない。移住など「見果てぬ夢」だという人もたくさんいる。
エクアドルに移った親戚の元を訪ね、バスでカラカスに帰る途中だという男性ホアン(58)は、今のベネズエラは「ひどい状況だ」と語った(身の安全のため姓は伏せてくれとの要望があった)。食料品店の長い行列や官僚たちの腐敗、そして日常化した暴力犯罪の恐怖。これじゃ国は悪くなるばかりだ、とホアンは嘆く。
ホアンはブリーフケースを開けて、ベネズエラでの暮らしに必要な大量の札束を見せてくれた。50ボリバル札の分厚い札束は、バスターミナルから自宅までのタクシー代(米ドルで5ドルに満たない)だという。
移住を考えたこともあるが、国を離れるリスクは大き過ぎるとホアンは言う。カラカスにいれば家があるし、経営するイベント会社も安定している。全財産を売り払っても今の為替レートではろくな金にならず、移住先で路頭に迷いかねない。
議会無視の政権運営も
だが国内に「守るべきもの」がある高齢世代と違って、若い世代はさっさと国を出ていく。
レイナ・チャン(25)は今年エクアドルに移住した。知人や友人の大部分も、既にオーストラリアやコスタリカ、香港などに移ったという。
そんなチャンも、6日の議会選挙には一時帰国して参加し、野党に票を投じるつもりだと語っていた。何しろ国の未来が懸かる歴史的な選挙だ。投票前の全国世論調査では野党が63%の支持を集めており、議席の過半数を占めるのは確実。マドゥロ罷免を求める国民投票が行われる公算が強い。