最新記事

南米左派政権

南米の石油大国ベネズエラから国民が大脱走

2015年12月22日(火)15時30分
ブリアナ・リー

 だがボリバルの購買力の最も的確な指標とされる闇ドル市場の為替レートは現状で1ドル=890ボリバルくらい。これで計算すると、改定後の最低給与でも約11ドルにすぎない。

 これでは生活が成り立たない。だからトティのように教養のある中産階級の人たちでも、財産のほとんどを売り払って現金に換え、別な国に移って一からやり直したくなる。ちなみにトティの店はまだ客足が伸びないが、それでも家族が暮らしていくだけの収入はあるという。

 ベネズエラの首都カラカスにある世論調査会社ダタナリシスによれば、国外への移住を具体的に考えている国民の割合は、10年前は4%だったが、現在は約30%と推定される。そして最近、渡航費用をできるだけ抑えたい人の間で人気の高まっている国の1つがエクアドルだ。

 エクアドルはたいていの国からの入国者に事前のビザ取得を求めていない。だから渡航費用さえ工面できれば、いったん入国してからビザを申請すればいい。今年の移住者数はまだ発表されていないが、同国に入国したベネズエラ人は昨年実績で8万8000人超。13年の6万4000人よりだいぶ増えた。

 もちろん、誰もが国外移住に賭けるわけではない。移住など「見果てぬ夢」だという人もたくさんいる。

 エクアドルに移った親戚の元を訪ね、バスでカラカスに帰る途中だという男性ホアン(58)は、今のベネズエラは「ひどい状況だ」と語った(身の安全のため姓は伏せてくれとの要望があった)。食料品店の長い行列や官僚たちの腐敗、そして日常化した暴力犯罪の恐怖。これじゃ国は悪くなるばかりだ、とホアンは嘆く。

 ホアンはブリーフケースを開けて、ベネズエラでの暮らしに必要な大量の札束を見せてくれた。50ボリバル札の分厚い札束は、バスターミナルから自宅までのタクシー代(米ドルで5ドルに満たない)だという。

 移住を考えたこともあるが、国を離れるリスクは大き過ぎるとホアンは言う。カラカスにいれば家があるし、経営するイベント会社も安定している。全財産を売り払っても今の為替レートではろくな金にならず、移住先で路頭に迷いかねない。

議会無視の政権運営も

 だが国内に「守るべきもの」がある高齢世代と違って、若い世代はさっさと国を出ていく。

 レイナ・チャン(25)は今年エクアドルに移住した。知人や友人の大部分も、既にオーストラリアやコスタリカ、香港などに移ったという。

 そんなチャンも、6日の議会選挙には一時帰国して参加し、野党に票を投じるつもりだと語っていた。何しろ国の未来が懸かる歴史的な選挙だ。投票前の全国世論調査では野党が63%の支持を集めており、議席の過半数を占めるのは確実。マドゥロ罷免を求める国民投票が行われる公算が強い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アクティビスト、世界で動きが活発化 第1四半期は米

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中