最新記事

サミット

日本も伊勢志摩サミットで対テロ戦争の矢面に

欧米が中東での本格的掃討戦に向かうなか、来年のG7議長国として問われる安倍政権の覚悟

2015年12月2日(水)16時00分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

課題 テロや難民問題に安倍晋三首相はどう対処するのか Issei Kato-REUTERS

 ヨーロッパでISIS(自称イスラム国、別名ISIL)が荒れ狂っている。「イスラムのテロ」とよく言われるが、イスラム教徒の大半は穏健だ。中世のバイキングや倭寇も金品を狙った一種のテロだった。ISISもテロを正当化し無知な青年たちを引き込む道具としてイスラムを利用するだけで、指導者たちは野心や利権に駆られて動いているに違いない。

 ISISはイラク・シリアのアルカイダ系組織を率いたアブ・バクル・アル・バグダディがアルカイダ指導部とたもとを分かった組織だ。アルカイダはサウジアラビアなどの支援を受け、湾岸諸国の天敵イランに近いシリアのアサド政権を倒すために活動していた。ところが昨年4月、サウジアラビアの総合情報庁長官が解任され、シリア工作を担当したムハマド内相がシリアのイスラム過激派を摘発する方向に転じた。

 ISISの動きが表面化したのは昨年初めから。湾岸諸国からの支援が途絶えるのと同時に、自ら金づるを求めて勝手に動き始めたかのようだ。雇い主を失った過激派が国際テロリストになった例は多数ある。アルカイダのウサマ・ビンラディンはアメリカやサウジアラビアの支援を受けて、ソ連軍と戦うアフガニスタンゲリラを指揮していた。

 テロを生む背景はさらにある。世界各地に青年の失業者が増えている。先進国内でも経済格差が拡大し、生きがいを求めてISISに参加する青年もいないわけではない。ISISの兵員の半分に当たる約1万人は中東域外の中央アジアやロシア、ヨーロッパなどの国籍を持つと推定されている。

多国籍軍派兵の可能性も

 さらなる背景として、大国が介入して政権を倒したり、情勢を流動化させた後に無責任に撤退すると、力の真空状態が生まれ、テロ勢力が横行するようになる。古くはソ連軍が撤退した後のアフガニスタン、今回はイラクといった具合だ。専制支配下にある途上国の民主化を助けようとする欧米NGOの活動も、意に反してその国の情勢を不安定化させてしまうことがある。

 中東のテロや難民の問題は対岸の火事ではない。日本は来年G7首脳会議の議長国なので、なおさらだ。欧米ではテロ容疑者の摘発が強化されている。「疑わしき者は検挙する」予防拘束や盗聴など、これまでの法制ではできなかったことも行われるようになった。また難民受け入れを増大しつつ、テロリスト審査は強化するという難しい課題もクリアしないといけない。これらについては、G7でも調整をしないといけないだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中