「ユーロは意味を失う」、シェンゲン協定崩壊にEUが警鐘
国境検査なしで自由に往来できることを保証したEUの基本理念が危機に
11月25日、欧州委員長は、「シェンゲン協定」が崩壊すれば単一通貨ユーロは意味を持たなくなると警告した。写真は破損した1ユーロ硬貨。ワルシャワで2012年9月撮影(2015年 ロイター/Kacper Pempel)
欧州委員会のユンケル委員長は25日、欧州26カ国が締結する国境検査なしで自由に往来できる「シェンゲン協定」について、一部締結国が押し寄せる難民対策の一環として国境審査を再導入すれば、単一通貨ユーロを含む欧州連合(EU)の構造に政治的な影響が及ぶとの認識を示した。
同委員長は欧州議会で「シェンゲン協定は欧州の構造の土台の1つである」とし、「同協定が崩壊すれば単一通貨ユーロは意味を持たなくなる」と警告。
そのうえで「シェンゲン協定は『こん睡状態』にある」とし、「欧州の価値、原則、自由を信頼するなら、同協定の精神の蘇生に向け努力しなければならない」と述べた。
シェンゲン協定はEU加盟国のうち22カ国が締結。残りの4カ国はEU非加盟国となっており、19カ国で形成されるユーロ圏とは法的枠組みが異なる。
このためユンケル委員長の発言は政治的な意味しか持たないが、移民・難民問題でEU加盟国間の緊張が高まれば欧州の結束が揺らぐとの懸念を反映したものとみられている。
難民流入に圧倒された西バルカン諸国は、シリアやアフガニスタン、イラクからの難民受け入れを制限し始めており、約1500人の難民がギリシャ北部で足止めされ、マケドニアに入国できないでいる。こうした状況のなか、ユンケル委員長の発言は警鐘にも受け取れる。
国連の潘基文(バン・キムン)事務総長は、こうした新たな制限について「亡命希望者を国籍に基づいて判断することは、亡命を希望するすべての人の人権を侵害するものだ。国籍を問わず、個々人の状況が検討されるべきだ」として非難した。
シェンゲン協定の一部締結国がフェンスを建設して国境を封鎖したことで、さらに何万人もの難民がマケドニア、セルビア、クロアチアで立ち往生している。
トルコからギリシャのエーゲ海諸島に新たに到着した難民の数は今週、良い天候にも関わらずペースが落ちている。これは、トルコ政府による密航業者の取り締まり強化が功を奏した結果かもしれない。
トルコのダウトオール首相は、29日にベルギーの首都ブリュッセルでEU首脳陣と難民問題について協議する予定。この会合では、EUがトルコによる難民支援をサポートするため、2年間にわたり30億ユーロ(約3900億円)の基金を設立するなど、共同の行動計画の正式合意を目指すとみられる。