中台密談で歴史問題対日共闘――馬英九は心を売るのか?
この講話の中で、習近平氏は「当時の資料や証言者、物証などを徹底して集めること」や「両岸(中台)の歴史学者が史料を共有し、ともに抗日戦争史を描いていくこと」などを強調している。さらに「中華民族が極悪非道の日本軍と戦った歴史を、世界反ファシスト戦争勝利の中に克明に刻んでいかなければならない」という趣旨の主張を何度もしている。
7月30日の講話を受けて、9月1日に「連戦・習近平会談(連習会談と称する)」で、習近平氏は中台が共同して抗日戦争史を描いていこうと、連戦氏に呼びかけたわけだ。
この「連習会談」における習氏の話を受けて、11月7日に、馬氏は「習先生が2カ月前(9月1日)に提案なさった~~建議」と、台湾側から積極的に話を持ちかけたのである。それは当然、習近平氏の「中華民族の尊厳を共有した中台協力」という出発点を受けてのものだ。
仮にもし、馬氏が、「抗日戦争において、蒋介石率いる国民党軍が正面戦場で日本軍と戦い、中共軍は国共合作を口実にして生き延び、日中戦争の間に勢力を拡大していった」という真実を語るのならば、それは歴史的に非常に有意義なことだ。
しかしシンガポールのシャングリラホテルにおける7日の、あの満面の笑みの握手から見て、そのような真実を馬氏が語る勇気を持っているとは言い難い。
これまで日中戦争の主戦場において戦ってきたのは国民党軍だとして、北京政府にものを言うことができた「台湾」は、もう消えたのか。蒋介石が毛筆の日記に綴ってきたあの無念を晴らしてあげるどころか、国民党軍自身をさえ裏切ろうとしている。
少なくとも今の時点では、台湾国民党は中国共産党が書き換えてきた、日中戦争における中国共産党軍の役割を容認するつもりだろう。
そのために、習近平氏はあの「歴史的握手」という演出を馬英九氏にプレゼントしたとしか思えない。
来年の総統選のために馬英九氏は、日中戦争時における国民党軍の功績を矮小化し、事実を歪曲してまで、共産党軍を讃えるという卑屈を選ぼうとしている。
民間の学者に任せると言っているから、せめて民間の学者が「御用学者」ではなく、良心を持った、真実を求める学者たちであることを祈らずにはいられない。「禁区を設けない」という提案を、忠実に守るか否か、それが分かれ目となる。
それは台湾の分岐点であるとともに、日中関係の分岐点でもあることを、日本は心得ておかなければならない。