対ISISで「不可欠な国」に、プーチン流政治の落とし穴
対テロ戦争で存在感を高めているが、チェチェン紛争などのリスクは抱えたまま
11月24日、プーチン大統領(写真)は、米国がさらなる関与に二の足を踏むなか、シリアやウクライナ情勢、過激派組織「イスラム国(IS)」との戦いにおいて、ロシアを「不可欠な国」にしようとしている。ソチで10月撮影(2015年 ロイター/Alexei Nikolsky/RIA)
プーチン大統領は、シリアに介入することで、比較的孤立していた状態からロシアを脱却させることに成功。そして米国がさらなる関与に二の足を踏むなか、シリアやウクライナ情勢、過激派組織「イスラム国(IS)」との戦いにおいて、同国を「不可欠な国」にしようとしている。
しかしこのような地政学的なポーカーゲームで、プーチン氏が勝ったままゲームをやめられるかは分からない。とりわけ、24日に発生したトルコ空軍によるロシア軍機撃墜のような予期せぬ事態が起きた場合はなおさらだ。
空爆などによるロシアのシリア介入は、アサド政権側を再び優位に立たせ、イスラム国に対する空爆作戦を行う米国主導の有志連合は劣勢を強いられていた。
しかし130人が犠牲となったパリ同時多発攻撃と乗客乗員224人全員が死亡したロシア旅客機墜落事件を受け、プーチン氏は狙いの的をイスラム国に移し、フランスに協力を申し出た。ロシア国防省は、シリア国内の標的に落とされる、「パリのために」と書かれた爆弾の写真を公開した。
「フランスは戦う意思はあっても能力を出し切れず、米国は能力があるのにやる気に欠けた状態のなか、ロシアにはISに対して大規模な武力行使を行う意思と能力がある」と、パリにある戦略研究財団でシニアリサーチフェローを務めるブルーノ・テルトレ氏は指摘する。
ウクライナ情勢をめぐる行動で西側諸国からのけ者扱いされていたプーチン氏だが、ハードパワーと外交力を組み合わせた「レアルポリティーク(現実政治)」のおかげで、同氏は今や国際舞台の場で人気者となっている。
だからと言って、クリミア併合などで受ける西側からの経済制裁をプーチン氏が免れるわけではない。トルコで先週末開催された20カ国・地域(G20)首脳会議に出席した西側諸国の首脳らは、ロシアに対する経済制裁をさらに半年間延長し、来年7月までとすることで合意した。
シリアへの介入も成功を収める保証はない。軍事介入は意気揚々と始まっても、失敗に終わることが往々にしてある。英米はそれをイラクとアフガニスタンで学び、旧ソ連も1980年代にアフガニスタンで経験した。
1990年代後半に当時のオルブライト米国務長官が自国を「不可欠な国」と主張したが、その地位にロシアを押し上げたとプーチン氏は考えている。
だが、プーチン氏は背伸びし過ぎており、国内の武装勢力や中東産油国からもたらされる安全保障上の、そして経済上の危険を蓄積させていると、一部の専門家は指摘する。
他の大国との関係に影響しかねないのは、プーチン氏が「背後から刺された」と表現したトルコによるロシア軍機撃墜だけとは限らない。西側諸国の部隊が関与する「誤射」や多数の民間人が犠牲となるような攻撃も、プーチン氏の作戦をコースから外れさせる可能性を秘めている。
優れた戦術家
「地政学的に見て、プーチン氏は優れた戦術家だ。私は嫌いだが、好き嫌いは別にすれば『プーチン流政治』はかなりうまくいっている」と、かつて駐ロシア欧州連合(EU)大使を務めたマイケル・エマーソン氏は語った。