最新記事

中東

パレスチナを襲う新たな混乱

報復の連鎖でインティファーダ再来がささやかれるなか住民は危機感を募らせる 

2015年10月22日(木)15時47分
ローラ・ディーン

暴力の応酬 イスラエルの治安部隊に投石するパレスチナ人(ヨルダン川西岸地区ヘブロン) Mussa Qawasma-REUTERS

 果たしてこれは第3次インティファーダ(パレスチナ人の抵抗運動)の始まりなのか。その答えがどうあれ、イスラエルとパレスチナの間で相次ぐ衝突はここ数カ月で激化し、住民を緊張状態に陥れている。

 7月末に起こったユダヤ人入植者によるパレスチナ人への放火・殺害事件以降くすぶりだした暴力の応酬は、先月から急拡大した。きっかけは、ユダヤ暦の新年を前にイスラエル治安当局がエルサレム旧市街にあるモスク、アル・アクサーの周辺を封鎖したことだ。

 同地域はイスラム教で3番目に重要な聖地であると同時に「神殿の丘」と呼ばれるユダヤ教聖地でもあり、参拝をめぐって衝突が絶えない場所。現在はユダヤ人による礼拝が禁じられているこの地でイスラエルが「現状を変更しようとしている」とパレスチナ人が懸念し、治安部隊との衝突に発展した。

 それ以降、双方の暴力事件はパレスチナ全土に広がった。先週には、ガザ地区にあるイスラム過激派組織ハマスの武器庫を狙ったとされるイスラエルの空爆で、妊娠中の母親と3歳の娘が死亡した。

 また、パレスチナ人の男3人がイスラエル人3人を殺害する事件も発生。翌日イスラエル警察が彼らの住む地区を封鎖すると、別のパレスチナ人の男がエルサレムのバス停で女性を刃物で刺して警察に射殺されるなど、連日のように襲撃が続く。

 報復が報復を呼び、もはやどの暴力事件がどれをきっかけに引き起こされたのかも分からない状況だ。今月以降の衝突による死者は先週末時点でイスラエル人が7人、パレスチナ人は30人に達した。負傷者数はイスラエル側が20人前後、パレスチナ人は500人以上とされている。

 イスラエルの治安当局による行き過ぎた武力行使も続く。攻撃される人の多くがデモ参加者で、13歳のパレスチナ人少年が射殺される事件も発生した。

治安部隊は以前より強硬

 この状況に特に危機感を募らせているのは子供を持つ親たちだ。旧市街の入り口ダマスカス門の近くで香辛料店を営むユセフ・スレイマには、8歳から32歳まで7人の子がいる。先週彼は、パレスチナ人少年が警察官に銃撃されるのを目撃した。

「子供たちが仕事や学校に行く日には、彼らに100回も電話をかける」と彼は言う。「くれぐれも気を付けろと言い聞かせている。長く外出するな。遅くまで外を歩くな、と」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米四半期定例入札、発行額据え置きを予想 増額時期に

ビジネス

独小売売上高指数、12月前月比-1.6% 予想外の

ワールド

トランプ氏の米国版「アイアンドーム」構想、ロシアが

ビジネス

ECB政策金利、春か夏にも中立金利に=フィンランド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 9
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 10
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中