最新記事

中東

パレスチナを襲う新たな混乱

2015年10月22日(木)15時47分
ローラ・ディーン

 その様子はさながら、黒人のアメリカ人が自分の子供に警察への接し方を教えている姿を思い起こさせる。怪しい事件に関わっていると誤解されるような行動は慎め。交通法規は守り、警官には近寄らず、トラブルを避けろ、というわけだ。

 イスラエル政府は各学校に午後1時半まで警備員を置くよう義務付けている。通常は午後4時半頃まで授業が続くが、エルサレムの小中学校は今月半ばから、警備員がいる時間内で授業を打ち切るようにしている。

 パレスチナ住民の中には、ニュースを見るのをやめたと言う人もいる。00~05年の第2次インティファーダのさなかに子供時代を過ごし、バスやレストランで頻発する爆弾テロを目の当たりにして育った若い世代は、かつての恐怖を脳裏によみがえらせているようだ。今では街中至る所で治安部隊や警察車両の姿を目にするようになった。

 スレイマは第2次インティファーダ当時よりも今回のほうが、子供たちの安全への懸念はずっと高まったと言う。「危険度は増したし、治安部隊はより厳しくなっている」

 デモ参加者でも襲撃犯でもお構いなしに、治安部隊は即座に引き金を引いているようだと、パレスチナ人たちは口をそろえる。パレスチナ人居住区でもユダヤ人地区でも危険は同様だ。今月には、ユダヤ人の若者がアラブ人に間違われ、同じユダヤ人の男に刺されて負傷する事件も起きている。

 公共バスで移動中にパトカーのサイレンが鳴ると、乗客たちが一斉に息をのむ音が聞こえる。誰もが窓から首を伸ばし、何か事件があったのかと外の様子をのぞく。携帯電話を取り出してニュースをチェックする人もいれば、心配そうにひそひそ話し合う声も響く。

終わりなき暴力への懸念

 信仰に救いを求める住民もいる。正統派ユダヤ教徒の旅行会社を運営するナフマン・アロールは、「すべては神のおぼしめしで、どの銃弾もおのずと標的は決まっている」と言う。それでも彼によれば今の状況は、組織だって行われていた第2次インティファーダとはまったくの別ものだ。「不満を募らせた若者がフェイスブックの記述に触発されてはナイフを手に誰かを襲う」と、彼は指摘する。

 終わりが見えないことを懸念する人もいる。休暇でエルサレムの家族を訪れているというユダヤ系アメリカ人のヤコブ・ブロイアーは、「救世主が降臨するまで続くように見える」と言う。旧市街でイスラエル人が刺殺される事件が起きて以来、多くのユダヤ人は嘆きの壁で祈りをささげることすら控えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=

ビジネス

ビットコイン一時9万ドル割れ、リスク志向後退 機関

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中