モノ扱いされる難民の経済原理
しかし、予算が乏しい人は格安サービスを利用するしかない。しばしば、ゴムボートとプラスチックのパドルでトルコからギリシャへと地中海を渡ることになる。救命胴衣は別料金なので、なしで済ませる場合が多い。
大きな船で密航する場合も、高い料金を払えば甲板で過ごせるが、安い料金しか払えない人は船倉に入れられる。船が転覆したり、燃料が炎上したりしたとき、最も危険なのは船倉だ。8月にも、リビア沖で沈みかけていた船の船倉で50人以上が窒息死しているのが見つかった。
密航業者にとっては、貧しい密航者は金持ちの密航者ほど儲けにならない。そこで、数をこなすことで埋め合わせようとする。冷凍トラックに71人もの人が押し込められていた背景には、こうした事情がある。
もし途中で死亡しても、業者は金を手にできる。低料金の密航者、特にアフリカ出身の密航者は、たいてい料金を前払いさせられるからだ。
大勢の難民・移民の命を奪っている要因は無知だ。難民・移民をひそかに運んでいる業者は、物を運ぶことと人を運ぶことの違いをよく理解していないケースが多い。何しろ、漁船がサイドビジネスとして密航者を運んだり、いつもはたばこを運搬している車が密入国者を乗せて走っていたりするのだ。
リビアでは6月、85人のエリトリア人がトラックの荷台で、大量のコンクリートブロックに囲まれた高さ1㍍ほどのスペースに押し込まれているのが見つかった。下手をすれば、ブロックに押しつぶされていても不思議でなかった。
71人が死亡した冷凍トラックの一件にしても、人間が物と同様の扱いをされていたために起きたと言っていいだろう。狭いスペースに何人押し込めていいかを誰も計算しなかったのだ。
隠れて旅を続ける理由
闇市場で人間が密輸品と同様に扱われていること──それが問題の核心だと理解すれば、有効性のある対策が見えてくる。
1つは、密航サービスの需要を減らすことだ。そのためには、難民・移民の出身国の暮らしを今より耐えられるものにし、未来に希望を抱けるようにする必要がある。アフリカの経済を強化し、シリアでとにもかくにも和平を実現し、難民キャンプの人々を支援するためにもっと手を打たなくてはならない。
もう1つは、密航の魅力を小さくすること。デンマーク政府はレバノンの新聞に広告を掲載し、難民に関する規制が大幅に強化され、新しく入国する難民への支援金が最大50%削減されることなどを告知し始めた。