最新記事

国際機関

国連が強いる「ブラック労働」にインターンが抗議デモ

人権保護の総本山であるはずの国連で労働条件改善要求

2015年9月25日(金)14時51分
ニック・ウィンチェスター

不公平に不満 インターンたちはニューヨークの国連本部前で立ち上がった Chip East-REUTERS

 ニューヨークの国連本部と言えば、世界中の国々の代表が集まって人権問題の解決や世界平和の推進を目指して話し合う場所――。しかし今週、そんな理想を裏切る国連の行動が明らかになった。国連機関のインターンで作るグループが、国連本部前で無給インターン制度の改善を求める抗議行動を行ったのだ。

 国際ニュースサイト「バイス・ニュース」の記事によると、「インターン制度の改善と公平な報酬を求めるイニシアチブ」と名乗るこのグループは25人のインターン、元インターンで構成され、国連前で「人間の輪」を作り、国連の潘基文(バン・キムン)事務総長にインターン制度の改善に取り組むよう求めている。

 国連の無給インターンの問題が注目を集めたのは、国連ジュネーブ事務局のインターン、デービッド・ハイドのテント生活が最近、スイスのメディアで報道されたから。ニュージーランド出身のハイドは先月、記事投稿サイト「インターセプト」に手記を寄せて、物価の高いスイスで宿泊先を確保することができかったためテント生活を決意したと語っている。

所属する機関によって異なる待遇

 インターン制度を説明する国連のウェブページを見ると、制度が無給であることは明記している。「旅費、保険、宿泊、生活費等、一切の経費はインターン本人かその支援団体が賄わなければならない」としている。

 英紙ガーディアンによれば、国連総会の直轄でないILO(国際労働機関)やFAO(国連食糧農業機関)、IAEA(国際原子力機関)、IFAD(国際農業開発基金)などの専門組織では、月額およそ600~700ドルの給与をインターンに支払っている。研究機関や大学などから金銭的な支援を受けていないインターンの最低限の経費をカバーするためだ。

「バイス・ニュース」がニューヨークの抗議行動の参加者に取材したところ、イギリス出身で現在国連インターンとして働いているアレックス・クチャルスキーは、「個人的な理由から言っているのではなく、無給のインターンは不公平だと思う。私はこのために8カ月間貯金したが、他人の家の居間で生活しなければならない」と、話していた。

豊かな家庭の人しか働けない不公平

 問題はそれだけではない。「所得水準の低い途上国からは、よほど裕福な家庭の出身でなければ国連に来ることはできないからだ。今のインター制度はそういう多くの人たちから参加の機会を奪っている」と言う。

 オーストラリア出身のクレア・メゾニエは、スウェーデンの学校に通っているため旅費と宿泊費をスウェーデン政府から支給されている。「チャンスや選択肢を持っていない有能な人はたくさんいる。それでも特に途上国の人々が参加できる可能性は低い」と、取材に答えた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トヨタのHV、需要急増で世界的に供給逼迫 納期が長

ビジネス

アングル:トランプ関税発表に身構える市場、不確実性

ビジネス

欧州自らが未来を適切に管理する必要、トランプ関税巡

ワールド

イラン最高指導者、トランプ氏の攻撃警告に反発 「強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中