最新記事

外交

中国新華網「天皇に謝罪要求」──安倍首相不参加への報復か

2015年8月31日(月)15時45分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 その政治利用が懸念されながらも、明仁天皇は訪中して中国人民に頭を下げ、謝罪している。そのおかげで西側諸国は経済封鎖を徐々に解いていき、中国はこんにちの経済繁栄を手にしたのではなかったのか――。

 その恩を忘れて、このような主張を載せる新華網には、良心もモラルもない。

 それなら中国は、なぜここまで常軌を逸脱した行動を取るに及んだのか。

 至近の時系列を見てみよう。

安倍首相の不参加表明との関連

 8月24日、安倍首相は参院予算委員会で9月3日に北京で開催される抗日戦争勝利式典には参加しないと明言した。同日、菅官房長官も記者会見で「9月上旬に検討していた中国訪問を見送ることにした」と表明した。

 新華網が実質上の「天皇謝罪要求」を載せたのは、その翌日の8月25日である。

 8月14日に安倍談話が発表されたとき、中国は激しい安倍批判を避け、ただ「自分自身の判断を回避している」という批判をしただけだった。

 もちろん、8月12日に天津の爆発事故があり、人民の関心はもっぱら爆発事故に集中し、ネットには「抗日戦勝行事に燃えている間に、天津が燃えた。自分の足元を見ろ!」という書き込みさえ現れていた。

 習近平政権にとっては安倍談話どころではなかったという側面もあったろうが、それ以上に、「もしかしたら安倍首相は、9月3日の式典に参加するかもしれない」という甘い期待があり、酷評を避けたと見るべきだろう。

 中国はすでに公の場で正式に、安倍首相を招聘していると表明していた。中国は実は、水面下の交渉で来ないかもしれないと判断された国に関しては「招聘した」とは公表していない。だというのに、安倍首相は最終的には「参加しない」と決定したのだ。

 習近平国家主席が、どれほどメンツを潰されたと思っているか、想像に難くない。

 その結果が、このなりふり構わぬ論評となったのではないだろうか。

 中国のネットには、「天皇謝罪要求に対する日本の抗議は不当である」という情報が充満している。

中国を増長させるアメリカの二面性

 中国をここまで増長させる背景には、アメリカの二面性がある。

 オバマ大統領自身は参加を見送っておきながら、国務省のカービー報道官は、25日の記者会見でアメリカのボーカス駐中国大使が「オバマ大統領の代理人として」、9月3日の抗日戦勝70周年記念に参加すると発表したのだ。

 カービー報道官はさらに「記念式典において、ボーカス大使は米大統領が選んだ代表だ」と述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム、違法な迂回輸出の取り締まり強化 米の対中

ビジネス

午後3時のドルは7カ月ぶり139円台、米関税懸念の

ビジネス

情報BOX:トランプ米大統領はパウエルFRB議長を

ビジネス

マツダ、希望退職者500人を募集 50歳以上の間接
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 4
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 5
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 6
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 7
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 8
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 9
    なぜ? ケイティ・ペリーらの宇宙旅行に「でっち上…
  • 10
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中