最新記事

中国

ダライ・ラマ亡き後のチベットを待つ混乱

2015年7月16日(木)17時30分
ブラマ・チェラニ(インド・政策研究センター戦略問題専門家)

 しかし中国を最も激怒させたのは、自分が最後のダライ・ラマになるかもしれないとして、転生の廃止を示唆した昨年12月の発言だ。

 中国が認定したパンチェン・ラマを偽物と嘲笑うチベットの人々が、中国が選んだダライ・ラマを受け入れないことは、中国が一番分かっている。ダライ・ラマが転生について明確な方針を示せばなおさらだ。

 ダライ・ラマの死が招く最大のリスクは、チベットが暴力的な抗議に訴えることだろう。

転生制度に存続の危機が

 ダライ・ラマは、中国からの独立ではなく高度の自治獲得を目指す「中道のアプローチ」を提唱。チベットの抗議活動は今のところ平和的に行われている。

 チベットの人々はこの60年超、テロリズムに手を染めない模範的な抵抗運動を追求してきた。チベットの宗教的、文化的、言語的遺産に対する中国の締め付けは厳しさを増すが、人々は武器を取る代わりに抗議の焼身自殺をする。その数は09年から140件に達した。

 しかし、チベットの若い世代は中国の冷酷なやり方に憤慨している。14世の死後に中国が「偽」ダライ・ラマを認定すれば、自治を模索する平和的な運動が、独立を目指す暴力的な闘争に変わりかねない。

 正統なダライ・ラマが認定されても基本的に幼い子供のため、リーダーシップを発揮できそうになく、暴力的な闘争に発展する可能性は高まるだろう。中国がチベットに侵攻したのは、ダライ・ラマ14世が15歳のときだった。

 33年にダライ・ラマ13世が死去した後、50年に14世が正式な指導者として即位するまで、チベットは政治的に混乱した。再び権力の空白が生じれば、転生制度は途絶えかねず、チベットの暴力的な未来が加速するだろう。その影響は、チベット高原をはるかに超えて広がる。

© Project Syndicate

[2015年7月21日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中