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官僚たたきは正しかったのか

2015年6月19日(金)18時00分
大西 裕(神戸大学大学院法学研究科教授)※アステイオン82より

 しかし、明らかなのは、本人─代理人モデルだけでは、官僚制分析は不十分であり、信託者としての官僚制の側面を見る必要があるということである。実証分析のみならず、規範的にも官僚制を代理人とのみ見ると、逆に公益実現に支障が発生しうる。実際に、本来信託者として制度設計すべきところを代理人的な設計にしたがための問題が、日本では近年選挙管理の分野で発生している(注5)。

 日本国憲法にも書かれているように、官僚は公僕である。しかし公僕のあり方は様々であり得る。政治家に官僚を従わせることだけが重要なのか、分野や官僚の能力によっては、むしろ官僚を政治家から切り離すことが必要なのではないか。政治主導の重要性が認知されただけに、逆に我々にとってより良い官僚組織のあり方について、政治権力との距離の取り方について考えてみる時期に来ているように思われる。

[注]
(1) 代表例として、曽我謙悟『行政学』有斐閣、二〇一三年。
(2) D. Carpenter, The Forging of Bureaucratic Autonomy: Reputations, Networks, and Policy Innovation in Executive Agencies, 1862-1928, Princeton University Press, 2001.
(3) G. Huber, The Craft of Bureaucratic Neutrality: Interests and Influence in Governmental Regulation of Occupational Safety, Cambridge University Press, 2007.
(4) C. Hood, "Control, Bargains, and Cheating: The Politics of Public-Service Reform," Journal of Public Administration Research and Theory, 12(3), 2002.
(5) 大西裕編『選挙管理の政治学』有斐閣、二〇一三年。

[執筆者]
大西 裕(神戸大学大学院法学研究科教授)
1965年生まれ。京都大学大学院法学研究科博士後期課程退学。博士(法学)。大阪市立大学法学部助教授、韓国高麗大学校客員教授などを経て現職。著書に『韓国経済の政治分析』(有斐閣)、『先進国・韓国の憂鬱』(中央公論新社、サントリー学芸賞)など。

※当記事は「アステイオン82」からの転載記事です

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