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見限られる馬英九と習近平、米台「国交」回復が始まった

2015年6月19日(金)11時36分
楊海英(本誌コラムニスト)

 制服組同士の交誼深化に合わせるかのように、民進党の女性主席(党首)の蔡英文(ツァイ・インウェン)が先月末から今月9日にかけてワシントンを訪れた。オバマ政権の高官は国務省庁舎内に彼女を迎え入れて会談。政府庁舎外のホテルで面会する慣例を破って厚遇した。すべては人気のない馬総統が政界を去った後のために打った手だ。

 アメリカは台湾と54年に米台相互防衛条約を結んでいる。その条約があったからこそ、中国の毛沢東国家主席が58年に大陸に近い台湾の前線基地金門島を44日間にわたって砲撃し「解放」をたくらんだときも、米軍は座視せずに台湾海峡に艦隊を進めた。しかし、この条約も79年の国交断絶で失効。米台の軍事交流は実質上、ストップしたままだった。

 ここに至って、アメリカは再び相思相愛の関係を構築しようとしている。アジア太平洋重視のリバランス政策の一環であろうが、遅きに失した感は否めない。フィリピンと日本とだけでなく、アメリカはもっと早くから台湾を国際社会の建設的な一員として迎え入れるべきだった。

自分を中国人と思う台湾人は3割

「台湾も大陸もどちらも中華民族だ」、と毛沢東の弟子のように振る舞う習は口酸っぱく語るが、自分を中国人だと思う台湾人は3割に満たない。香港に高度の自治を約束しながら、いとも簡単に国際的な規範を破り捨てる中国が信用できないからだ。

「蔡英文が台湾の指導者になるには、中国の13億の人民の試験をパスしなければならない」と、駐米中国大使の崔天凱(ツォイ・ティエンカイ)が次期総統候補を牽制する。「習先生と崔大使は人民からの試験を受けたことがあるのだろうか」と切り返した蔡の舌鋒は鋭い。

 民主主義的選挙で選ばれた総統が治める台湾の存亡はアメリカのアジア政策の成否に直結している。日本の旧植民地が中国の新植民地に転落しかねない今こそ、安倍政権も台湾戦略を立てるべき時期が来ているのではなかろうか。

[2015年6月23日号掲載]

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